6-220 面会
「ニナ様……」
声を掛けられたデイムは頭を下げながら、進んでくるニナにステイビルの正面の位置を譲った。
「ご無沙汰しております、ステイビル様」
「これはニナ殿。これは一体どのような状況なのですか?」
「それはこちらも同じことです……と申したいところですが、その件に関しては平行線のままでしょうから率直に申します……ステイビル様、このまま私に付いてきていただけませんか?」
ニナはステイビルに対し、強気の姿勢に出る。
それでもステイビルは、ドワーフ側の要請に応じなかった。
簡単に応じてしまえば、命を懸けてまで不快の意を示してくれた兵たちに申し訳がない。
とはいえ、話を拗らせるわけにもいかない……だが、この状況でうまく取引を持ち出せる材料もなく考え込んでいたところ、ニナの方から話しを持ちかけてきた。
「ステイビル様……あるお方がお待ちです。ですので是非ともご足労頂きたいのですが……」
「それは……まさか、カ……」
ニナは手を向けて、ステイビルの言葉を遮る。
一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに落ち着きをとりもどしいつもの顔に戻った。
「そこまでご存じなのですね……わかりました。それではお一人だけ、お付き添いの方をお許しします。それでどうかご容赦くださいませ」
このようなことが起きた場合、その付き添いはエレーナと事前に決めていた。
エルフやドワーフは魔法が扱えるため、いくら剣技の優れたステイビルやアルベルトであっても、その攻撃に耐え抜くことは厳しい。
人体の技に耐えられない力には、同じような力で対抗するしかない。
エレーナが持つ精霊の力こそが、魔法による攻撃に耐えうる手段のため、この場合はエレーナが同行することに決めていた。
「頼んだぞ、エレン」
「任せといて、アル」
「……それでは、こちらへ」
二人のやり取りを確認した後、ニナはステイビルたちに背を向け、自分の陣地へ向けて歩き始めた。
ステイビルとエレーナもその後に続き、一番後ろにデイムたち付いてその後を追っていく。
ステイビルとエレーナの姿がドワーフとエルフの列の奥へと消えていくのを見届け、アルベルトはそれぞれの兵が対峙する状況を見回した。
(特にこちらを攻撃する意図はない……か)
――コンコン
ニナが見覚えのある扉をノックする。
この部屋はステイビルたちが、この町で滞在したときに使わせてもらった部屋だった。
ここで亜人たちと人間の協定を結ばせ、様々な歴史的にも重要な取り決めを行っていった。
それぞれの種族の未来のために、共にその垣根を越えて創り上げていった場所。
そしてようやく王となり、あの時の約束を果たそうとしようとした時、このようなことが起きてしまった。
あの頃と違うのは自分たちの立場と引き連れている部下の数も違う、そのため考えることもあの頃よりも増えている。
それを辛いと思ったことはないが、あの頃の”気楽さ”をステイビルは懐かしく思い返す。
「……どうぞ、お入りください」
「ん?あぁ、ありがとう」
過ぎた記憶の中に浸っている間に、扉は開けられていた。
ステイビルは、部屋の中で自分のことを待つ者たちに会いに足を進めた。




