6-216 弱音
「よし、準備できたな?出発するぞ!!」
ステイビルが声を掛けると、大門の外に並んでいた馬車の列がゆっくりと動き始める。
本来、戦で町を出る際にはファンファーレが鳴り響き、戦いの勝利を願って兵を送り出す。
しかし、今回はそういう儀式的なものを止め静かに出立した。
王都の者たちを不安にさせないためもあるが、ハッキリとした敵であるかどうかもわからない。
そのため、王都内を出る際も分散して門まで出ていき、大げさにならない様に配慮された。
道中、本来ならば二日で到着するところを、ステイビルは三日を目標とした。
この人数での移動もそうだが、通常の二日目では陽が落ちる頃に到着してしまう。
できれば、その手前で陣を張り相手が出てきた場合にでも対応できるようにし、ゆっくり休めるように進めていく考えだった。
エレーナとアルベルトも、その考えは同意した。
ステイビルが乗っている馬車の中に、エレーナとアルベルトが王の前の席に座っている。
これから起こりうる事態について、三人でゆっくりと話し合うことができた。
幸いにして、その道中の中では何の問題も起きずに、無事に目標としていた地点までステイビルたちは兵を進めることができた。
いよいよ明日、グラキアラムの到着となった前夜。
兵士たちもゆっくりと時間は与えられたが、それ以上に起こりうる最悪の事態を想像してしまい、落ち着かない様子だった。
それは兵士たちだけでなく、ステイビルたちも同じだった。
食事の際に、三人ほとんど無言で料理を口に運ぶだけだった。
そして、空いた皿が下げられて食後の飲み物が用意されている時、ステイビルは二人に問いかけた。
「王女……いや、ハルナはいまどうしていた?」
ステイビルのその言葉に、二人は動揺することもない。
この事態が起きる前から、ハルナのことをステイビルから聞いたことはなかった。
多忙であることもその理由の一つだが、あまり気にしすぎていては、ハルナ自身や競いあったキャスメルのことなど、様々な理由から申し訳ないという思いがあったのだろう。
だからこそ、忙しさの中でハルナへの感情を意識の中に浮上させないようにしていた。
エレーナたちもステイビルの心情は察していたが、一国の王となった今、私情よりも公に対してその労力を傾けなければならないと理解していた。
だからこそエレーナは、ハルナの状況をステイビルに代わり把握していたのだった。
そしていまは、あのことを語るべきではないと考え、今朝見たハルナの状態だけを伝えた。
「ハルナ様は、お変わりございませんでした。本日もマーホン様と一緒に、わたしくしを送り出していただきました。色々と頑張っておられますよ」
「そうか……それは何よりだ。それにしても、あの頃が懐かしいな……そんなに昔というわけでもないのにな」
ステイビルは目を閉じて、背もたれに身体を預けて上を向く。
「私もエストリオ様のように王家を離……」
「ステイビル様!それ以上は口にしてはなりません!?」
エレーナは強い口調でステイビルを戒めた。
その声の大きさと力強さに、ステイビルは自分が口にしようとしていた言葉が、いかに危険なものであるかに気付いた。




