6-201 違和感11
「……ニーナさま?」
キャスメルは今のニーナの姿を見て、変わり果てた姿に驚愕する。
その姿から様々なことが想像できるが、今はそれを追求するのは良くないと口を閉ざした。
「ニーナの姿を見て驚かれたであろう……キャスメル殿」
「え?……あ、いえ……そんな」
「いや、気を使って頂かなくてもよい。本来はこちらからキャスメル殿をお呼びする予定だったのだが、偶然にもこうしてお会いできたことは精霊の神々に感謝をせねばならんな」
「……カステオ兄様のおっしゃる通りですわ」
そういうとニーナは弱々しい笑顔をキャスメルに向けた。
向けられた側のキャスメルは、自分の心臓の鼓動が速くなっていくのを感じている。
痩せ細り弱々しくなったとはいえ、元の資質は衰えはしなかった。この様な状態でもキャスメルはニーナのことを美しく思えた。
それに、大きな失恋の直後の状態でニーナからそのような言葉を聞いたキャスメルは、その言葉の真意を想像すると落ち着いていることはできなかった。
「もしかして、ニーナ様は……わたしのことを……?」
「ニーナはキャスメル殿をお待ちしておりました。ステイビル様へのお取次ぎをお願いしたかったのです」
「え?……え?……あ、そうですよね」
「どうかされましたか?キャスメル様?」
「い、いえ!?ダイジョブです……はい」
弱々しい身体でキャスメルのことを心配してくれるニーナに、落胆の色をなるべく隠そうとした。
そして、ちょっと期待していた自分が恥ずかしくなり、この場から身は隠したい気持ちで心の中が満たされた。
この感情を消すために、キャスメルは話題を変えようとカステオの周囲を見回す。
通された謁見の間の数段高い位置に並べられた椅子が二つある。本来そこには王女である存在が腰かけるはずだった。しかし、カステオが座るその反対側は空席となっており、ニーナもそこに腰かけるわけでもなく、この部屋の入口の扉に近くにキャスメルと同じ高さの床に立ったままだった。
「カステオ様……あの……王女様はどちらに?」
王選の間に西の王国の王が婚姻したという情報は入ってきていなかった。
通例では、西の王国も東の王国もそのような場合には、相手の国の王を式に招待をすることになっている。
が、父である東の国王が西の王国へ移動したり、自分たちも王選の途中で招集されることもなかった。
そのようなことを思い出しつつ、失礼とは思いながらもキャスメルはカステオに質問した。
その言葉に、この間の空気が一瞬張り詰めた。
キャスメルはそのことに危機感を感じたが、カステオは周囲の者たちに目線をやりその空気を静めた。
そしてカステオは、怯えた目をするキャスメルに対して優しい口調で語りかけた。
「先ほどのことだが、恥ずかしいことに未だ独身なのですよ」
若くして王になったカステオは、王女を娶っていなかった。
その理由は、若い王であり周囲の国々への警戒やニーナと争った王選で二分された国を立て直すことを最優先とし、女性の方まで気を回せないというのかカステオの決断だった。
その話を聞くまでは、フェルノールのことを忘れられないのだろうと考えていた。
だが、実際にはその判断も違っており、カステオは自分自身のことよりも最愛の妹ニーナの幸せを最優先に考えていた。




