6-195 違和感5
「それで……どうなったの?」
エレーナはハルナの身に、記憶喪失ではない何かが起きたのだと強く感じる。
ハルナは自分たちが今まで見てきたことは知らない様子だが、自分やソフィーネを含めた周囲の人物には記憶があるようだ。
その辺りはまた後で考えるとして、エレーナは続きを話し始める。
「それで、二人の王子はハルナの気を引くために、競い合うことになったの」
まずそういって、エレーナはハルナの知りたがっている話の続きを再開する。
二人はハルナの気を引くために、様々なアプローチをしてきたという。
分かりやすいところでは金品、地位など、自分たちが自由にできる様々なものを提示した。
もちろん、そんなものではハルナの心をどうにかできるはずがないことは、二人は十分に理解をしている。だが、ハルナの気を引くためにそれ以外の方法が二人には思い付かなった。
結果は、二人の予測通りハルナの気を引くことはできなかった。
とはいえこの国の未来を決める重大なイベントであり、当事者だけの問題ではなく、ステイビルとキャスメルの派閥の者たちも自らを推す人物のために事を大きくしていった。それに従い、国民の関心度も高まっていく。その状況が三人の逃げ場を無くしていき、ハルナも二人のどちらかの想いに応えなくてはいけない心境になっていった。
そして、何とか終わりの見えないこの状況を打開しなければならないと、二人は協力者を求めることにした。
その協力者もそれぞれの王選のメンバーから選んでしまうと、自分の近い存在に感情が傾いてしまうという意見がどちら側からも出され、二人のことを知りハルナのことも知る第三者が良いという意見が採用された。
そこでその重要な役目に、”マーホン・エフェドーラ”が選ばれた。
マーホンはハルナに好意を抱き、自分がハルナ自身を自分のモノだけにしたのではない。
マーホンはこれまでも、ハルナが成功に導くために表と裏から支えていた。さらには、マーホンは王宮とのつながりも強く、多少のことではマーホンの意見を覆すことができる者はいなかった。
そのような立場であるからこそ、ハルナも二人の王子もマーホンがこの件に対しての公平な協力者となることを承諾した。
まず、マーホンはハルナに今の気持ちを確認することにした。
その質問に対し、ハルナは今の素直な気持ちをマーホンに伝えた。
まずは、自分が本当はこの世界の人物ではないことを気にしていることを口にする。
次にエレーナに発見され、ここまで何の苦労もなく今の地位を与えられたことに困惑していることも。
マーホンは、もう一つハルナに質問を重ねた。
『もし、帰ることができるなら……元の世界に帰りたいか?』と。
「……その質問に、私はなんて答えたの?」
自分もサヤに、同じ質問をされたことがあることを思い出した。
それよりも、この世界の”ハルナ”自身がどのように答えたのかガ気になっている。
それを感じたエレーナは、少しだけ意地悪をして、間を置きながら質問に答えた。
「ハルナはね、今はこの世界が好きになっているって言ったのよ」




