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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-64 コボルド討伐12



コボルトの長は、剣によって身動きのできなくなった隊長へ近づいていく。


『我らの森に火を放った罪、その命で償ってもらうぞ』


コボルトは、掌に黒い炎を出す。


「人間が、お前たちみたいな低能な生き物にやられると思うのか?」


隊長は、この状況において余裕のある態度で応えた。

その言葉に、コボルトは剣先を首に押し込んだ。

そこから、赤い血が一筋流れる。


『そんな余裕がどこにある、愚かな人間よ……この状況がみえてないのか?』

「ククク……見えてないのは、お前たちの方じゃないのか?」


男は、不敵な笑みを浮かべる。


「……これは、あなたのお知り合い?」


ソフィーネは、草むらに隠れていた警備兵二名を無造作に放り出した。


「な!?なぜ、隠れていることが分かったのだ!」

「あなた方みたいな、卑怯で残虐なやり方は嫌というほど知っているの……お望みなら、今ここでお見せしましょうか?」


ソフィーネは、全く感情のない冷笑で相手を威嚇する。

その表情に、隊長の表情は血の気を失う。


『では、そこの人間よ。もうそろそろ、死ぬ覚悟はできたか?』

「ま……待ってくれ!殺さないでくれ……助けてくれ!!!」


隊長は目は真っ赤に染まって涙ぐみ、コボルトの長に懇願する。

最後の切り札だった闇討ちも、ソフィーネに阻止され余裕の材料がなくなってしまった。


『勝手なことを言うな!お前は我らの仲間を、一度でも助けたことはあるのか!?』


叫びながら、首に当てた剣先が数ミリほど力が入っていく。

怒りで持つ手が震えているのか、人間の頚動脈が恐怖のあまりに拍動が強くなったのか。

剣が震えているのがわかる。


「待ってください!」

『……誰だ、お前は?』


アーリスの呼び止めに、長が振り向かずに応える。


「私は、西の国の警備兵でアーリスといいます。今回、火を放つ情報を知っていながら止めることが出来ずに申し訳ございませんでした」


アーリスは、コボルトに対して経緯と謝罪の気持ちを込めて声を掛ける。


「今回の作戦は、警備隊の中でも異論が唱えられていたのです。ですが、この隊……この者は私との約束も守らず、勝手に単独でこのような行動に出ています」

『フン。それがどうした!?我々には何の関係もなく、この辺りの縄張りも火によって害を受けた!この始末はどうするつもりなのだ!』


アーリスは、黙ってしまう。

そういわれると、自分には何の権限もなく何も決められない。


(私の力が弱いばかりに……)


アーリスは、自分の非力さを痛感し下唇を強く噛みしめる。


『……その沈黙が答えか。ならば、この始末は、この男とそこら中に転がっている人間の命で償ってもらうとしよう』


隊長の後ろにいるコボルトが、首から剣を放し大きく振りかぶる。


『では、その大した価値もない首をいただくぞ。自分の犯した罪を悔やみながら苦しんで死ね』


そういうと、首をはねるために剣を振り下ろした。


「ヒッ」

――キーン!


男の首の前に、岩の壁が立ちはだかる。

男の股間からは、液体が染み出ている。


「お待ち下さい、コボルトの長よ」


クリエが、いつもの弱々しさを感じさせない口調でコボルトに告げた。


『なぜ邪魔をした?我らに協力をもちかけたり邪魔をしたり。……どういうつもりだ?』

「今回の森の放火ですが、山脈を東側に越えているため東の王国での管轄となります。この者たちは、東の王国にお任せいただけませんか?」

『……お前も自分勝手なことをいうのか?我らが受けた被害はどうしてくれる!?』

「そのことは、地域の保護を含め協力させて頂くように話していきます。すぐにはできないかもしれませんが、一緒に森を守れるようにもなればと思っています」

『騙されんぞ……もう二度と人間には騙されん!そんな夢みたいなことが実現できるものか!?』


クリエの前に、火柱が上がる。

その炎の中は先ほどよりも、黒く染まっていた。


「コボルトさん……それ!?」


ハルナは先ほど消した黒い闇が、再び長が蝕まれていることに気付く。


『……そうだ、もう遅い。私は人間への恨みによって、もうすぐ身体全体が黒い闇に飲み込まれる……』

『……長よ』


心配そうに、もう一匹のコボルトが駆け寄った。


「フーちゃん!」

「うん……随分と身体の中にまで黒いのが入り込んでるの。これじゃちょっと私じゃ取れないかな……」


フウカも、助けられない悔しさを滲ませる。


「お願いだ、長よ。最後に、人間を信用してくれまいか?この森は我々と長の仲間とで守らせてほしい!」


ルーシーは、その事実を知り最後に懇願する。

ずるいかもしれないが、この状況に乗じて約束を取り付けたかった。


『……弟よ。この件は、全てお前に任せる。そして、長の権威もお前に全て譲渡しよう』

『兄さん!?』

『そんな、悲しそうな顔をするな。私が出来なかったことを、お前がやればいい……その人間を信用してみるのも……手かもな」


コボルトの長が苦しそうに、胸に手を当てる。


『誰か……アンデッドになる前に……わたしを……頼む』

「ねぇ、ちょっと長くなるかもしれないけど眠ってみない?」


そう告げたのはエレーナだった。


「もしかしたら、この先ハルナが成長して”浄化の光”が強力になれば、助かるかもしれないでしょ?」


ルーシーやクリエは、エレーナが何を言っているか分からなかった。


「ハルナは大精霊のラファエル様の加護を受けているのよ……」


「――なっ!?」


この場の全員が驚きの事実に衝撃を受ける。


『な……なんと!?そうであったか』


コボルトの長がハルナを、大きな瞳で見つめる。


「で、どういうことなの?」


ソルベティが、エレーナに発言の意図を聞き返した。


「まず、長には凍ってもらうの。そうすれば黒い闇も進行しなくなるはず。そして、ハルナが本当に加護を受けて進歩したときにもう一度浄化に挑戦するっていうのはどうかしら?」


一同は黙り込んでしまう。


(――本当にそんなことが出来るのか?)


誰もが、同じ疑問を抱くが誰も解決できない。


『よし。人間よ、それでお願いできますか?』


答えたのは弟のコボルトだった。

コボルトの長は、少しだけにんまりと笑う。


『お前の決断に任せたぞ、弟よ。次に目覚めた時にはどのように変わっているか楽しみだな!』


苦しそうに息をするコボルトは、エレーナに向く。


『では、時間がない……さっさと、やってくれ……頼んだぞ……人間よ』


エレーナはその言葉に大きく頷き、コボルトの長の周りを凍らせていく。


『それでは少しの間、眠らせてもらおうか……』


それがコボルトの長が凍る前に発した、最後の言葉だった。




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