6-163 見覚えのある者9
――コンコン
この空間の中、先ほどの家族だけの和らいだ空気は一瞬にして消え去っていく。
そして、アルベルトはベット脇に座っていた椅子から立ち上がり、扉の方に身体を向け顔はエレーナの方へ向けた。
「エレン……」
扉のノック音に反応し、アルベルトはエレーナに視線を送り確認する。
その問いに対して、一度頷いてノックに応じることを合図すると同時に表情と雰囲気を、もう一度”家族団らん”用に作り上げた。
その結果を確認して、アルベルトはドアの向こうの人物に嬉しそうに声をかけた。
「開いております……どうぞ!」
その声を聴き、ドアの向こうで待機していた人物はドアノブに手をかけて扉を開けた。
そして中には今まで見たことない二人以外の存在がいることを確認した。
「――失礼します」
そう声をかけて入ってきたのは、防具を装備はしていないが剣を腰に下げたままの騎士団の兵が二人ほど家族の空間に割り込んでくる。
男たちは入ってくると、エレーナが――事前に用意していた―――胸元が開いていることに気付き授乳の途中だと判断した。
二人はその視線をエレーナから外してステイビルに固定をする。
「こ、この度は無事のご出産おめでとうございます」
照れながら伝える騎士団の男は、社交辞令のような口調で主であるアルベルトに告げる。
「ありがとうございます、エレーナも我が子も無事でホッとしております」
アルベルトも王選後に騎士団に入団し、王選を乗り越えた技術して指導者の地位を与えられた。
それは小隊を扱えるほどの位であり、いま入ってきた隊を扱うこの男よりもその地位は上だった。
しかし、アルベルトはその地位と反した対応をいつも取っている。
これまで共に努力をしてきた培われる信頼は、時間の中で強くなっていくものだとアルベルトは知っている。
それが上長からの”命令”で、任務としてこなさなければならない。
とは言え、その命令に対する達成度などの根底には信頼が欠かせない。
自分の命を預ける上長からの指令は絶対であっても、その奥にある物が達成度を変えていく。
アルベルトは騎士団の中でも実力者ではあるが、他の者たちとの絆が薄かった。
指導者として、指導する者たちと交流を深めたいと申し出たがそれは適わなかった。
アルベルトは指導する者たちとの業務以外の接触を禁じられ、指導する際も王国の騎士団の監視が常にあった。
余計なことをすれば制され、アルベルトではなくその者たちが罰せられていた。
その事実を知ってから、アルベルトは指導する者たちへ必要以上のコンタクトを取らないように心掛けるようになった。
今この場に訪れた者は指示を出す立場の者であり、その前の状況も踏まえてアルベルトはこの部屋に訪れた理由を確認した。
「それで……ここに来られたのは、どのようなご用件でしょうか?」
質問を投げかけられた男は、咳ばらいを一つしてその行為がさも当然かのように自信に満ちた態度でアルベルトの問いに対しこう答えた
「――生まれたばかりで申し訳ないが、その赤子……我らに渡してもらう」




