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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-62 コボルド討伐10



『そこからだ……我々が人間を襲撃の対象としたのは』


コボルトの長は話を終えると、下にうつむいたまま目を閉じた。

この場所からは言葉が消え、風が草木をこすり合わせる音が不規則に続いている。

本来なら心地が良い音も、いまコボルトから聞かされた話しの内容の前にかき消されてしまっている。


「あの、なんて言ったらいいか……」


ハルナの心の葛藤が、自然に口に出てしまった。

どうやって助けてあげるべきか、どうすればその辛い記憶から救ってあげることが出来るのか。

その手段が今のハルナには、何も思いつかなかった。

憐れむ視線が気に食わなかったのか、コボルトは怒った口調で返す。


『別に何かをしてもらいたいわけでも、同情してもらいたいわけでもない。お前たちが人間を襲う理由が聞きたいといったから話をしたまでだ……』


首を振り、やれやれといった態度をとり他の人間の姿を見渡す。

しかし、明らかにコボルトに対して同情しているのが態度から見てとれる。


「ごめんなさい……ごめんなさい、コボルトさん……ごめんなさい」


涙を流しながら、クリエは何度もコボルトに対して謝っている。

コボルトは少しだけ、ハルナたちにこの話をしてしまったことを後悔した。


「人間も悪い者ばかりではないのです。そこは誤解しない……」

『そんなことはわかっている!そんな人間を信じ切っていた自分たちにも、腹が立っているのだ!』


コボルトの長は叫んで、ルーシーの言葉遮った。


『しかし……もう後戻りはできない』


そういってコボルトは手を前に出し、掌に炎を出して見せた。

そこには、真っ赤な炎の中に黒い色をしたものが混ざっている。


「こ……これは、まさか!?」


エレーナたちにとっては過去に、何度か見覚えのある現象だった。


『これは精霊様の力を裏切った罰ではないかと考えている。私の身体にも同じような色で、浸食が始まっているのだ。時々だが、自分の記憶をなくしてしまう……恐ろしい病気なのだ』


袖をまくると、三箇所以上に黒い痣が皮膚を浸食しているのが見えた。

その部位には、身体を覆う剛毛な毛がごっそり抜け落ちている。


エレーナはハルナと目を合わせ、お互い頷く。


「フーちゃん」

「わかった!」


フウカは、コボルトの前に行き黒に浸食された腕を眺める。


『あ。精霊様…… な、何をされ!?』

「ちょっとそのままにしてて。痛くないからね……多分」

『え?あ?それは……ちょっと!?』


そういうと、フウカは黒い皮膚に光を当てる。

コボルトはビックリしてピクッと身体を一瞬こわばらせたが、何ともないとわかってじっとその様子を見守る。


『あ……あ……』


その様子を眺め、コボルトは言葉にならない声をあげる。

ルーシーたちも、初めて見る信じられないこの光景を黙って見つめていた。

フウカの当てた光の中で、コボルトの腕から黒いものが霧状になり光の中で蒸発していく。


「はい、おわり!えっと、他には?」


フウカが、次の場所を確認する。

コボルトは信じがたい出来事に、初めは黒色だった皮膚をそっと手で撫でた。

呆けている長に、隣にいたコボルトが身に着けていたものを脱がせていった。


『な……なにをする!?』

『長は、これで助かるんです!これでもう、この病気に怯えなくて済むんですよ!!』


コボルトは、嬉しそうに服をはぎ取っていく。

そこには、体中に広がる黒いものが、身体を蝕んでいたことがわかる。

フウカはコボルトの身体を一周し、一通りその場所を確認した。


「はい。それじゃあ、いっくねー!!」


フウカは全ての、皮膚に浸食していた黒いものを全て蒸発させてみせた。

浸食された場所には、体毛はないがこの状態であれば直に生えそろうことだろう。


『有難うございます、精霊様!』


二匹のコボルトは、フウカに向かって地面にひれ伏して感謝した。


「や……やめてよ。ちょっと……はずかしいから」


フウカは照れて、いつも通りハルナの後ろに姿を隠した。


「これで大丈夫ですかね?フーちゃんも黒い影は見えなくなったって言ってますし」

『あなたは一体?』

「普通の精霊使いですよ?」


ハルナの代わりにエレーナが、自信満々に答えた。


「いやいやいや…… 普通の精霊使いはそんなことできないでしょ!?」


ルーシーが正気を取り戻し、エレーナの言葉に返した。


「そうですよぉ。あれって……普通の元素の力では……ないですよね?」


クリエが、目の前で起きたことを驚きを抑えながら検証した内容を話す。


「あれ?お話ししていませんでしたっけ?話せば長くなるんですけど……」


とハルナが話を始めようとしたとき、遠くから声が聞こえる。


「……さまー!ハルナ様―!」


この声はソフィーネだ。

声は徐々に、近づいてくる。

コボルトは警戒するが、エレーナが仲間であることを告げて安心させた。


「ハルナ様、状況が変化しました。現在西の王国が、森に火を放っています」

「えぇ!?あと一日くらい時間があったんじゃ?」

「はい。アーリスの情報はそうでしたが、早めに行動を開始したのではないかと予測します」

「どうして、わかったんですか?」


ルーシーは情報を確認する。


「交渉を待っている間、アーリスと私で少し先に進んで様子を見に行っていました。その途中で尾根よりも東側のルートで黒煙が上がり火が放たれていることが確認できました」


一同は、頂上付近をみると山から黒煙が昇っているのが見える。

その下には赤い炎が黒煙に映り、火の粉が舞い上がる。


『な……何という……ことを!許さんぞ、人間どもめ!!!』




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