6-110 決意
――バン!!
ルーシーがいる部屋のドアが突き破られ、兵士たちは流れ込んできた。
しかし、そこには炎の壁があり兵士たちはそれを見て突入を躊躇する。
その様子をみて、ある兵士が気付く……絨毯や天井などは待ってく焼けていないことに。
そこから隊長は、部下の腰に下げている剣を手渡すように指示する。
そして渡された剣を、炎の壁に向かって突き刺してみた。
しばらくすると、その剣は真っ赤に染まっていき、炎の壁が”本物”であると認識した。
これが見せかけの炎であれば、突き刺した鋼の剣にはなんの影響も見せなかっただろう。
それと同時に、ここまで元素のコントロールが精密に行える能力こそが王宮精霊使い長の実力であると驚愕する。
その裏でこれ程までに精霊の力を制御できる実力を持つ人物を、この国から失おうとしている状況に隊長は炎の壁の向こうにいるルーシーに語り掛けた。
「……くっ!?ルーシー様、馬鹿なことはおやめください!あなた様がこんな疑いを掛けられていること事態信じられません!我々と一緒に来てください、どうかお願いします!!」
隊長はルーシーのことを知っているのか、ルーシーの――短い期間であったが――これまでの言動に賛同している者の一人だった。
だからこそ、国を思うこととそれだけの能力を持つルーシーをこの場で失うことを男は強く否定する。
その声はルーシーに届いていたが、ルーシーはその声に応えることはなかった。
「ねぇ、ルーシー。お願いだよ、考え直してよ!?」
近年では家族よりも絆が深い、パートナーである契約精霊からそう声を掛けられるルーシー。
炎の壁の向こうから聞こえた声と、フランムの声に少しだけ決心が揺らぐ。
しかし、それもすぐに掻き消された……それは、この後のことに起こることを考えたからだった。
ルーシーが懸念することは……”セイラム家”のことだった。
ルーシー自身は、家については良い思いはない。
それでも、それを無視できるかと言われればそうではなかった。
自分をこの世に迎え入れてくれて、ここまで育ててくれたことについては否定することは出来なかった。
ルーシー自身が感じている悪い家の”制度”も、それがあったからこそそこから今の自分の”正しい”と思える考えを持てることができた。
なんの抵抗もなく順調に育ってきたのであれば、今のルーシーは存在しえない。
感謝の気持ちと反抗する気持ちのジレンマがあってこそ、今の自分の存在が出来上がっていることを知っていた。
だからこそ、ルーシーは自分の最期を迎えるにあたり、家には決して迷惑をかけないようにしたという思いがあった。
自分がここで”ケジメ”をつければ、家も最悪な事態にはならないだろうというルーシーの判断だった。
今の国王はそういう甘さが無いのは知っていたが、その裏にある”あんな家の滅亡”という事態も仕方がないことだと……
フランムが自分の説得無理だとわかったのか、この場から姿を消した。
だが、まだ自分とのつながりは感じられるが、いつかはこのつながりも向こうから切られるだろうと判断した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ルーシーは窓の下を見て、自分を終わらせるタイミングを見計らう。
最期にゆっくりと深呼吸をして、”その時”を決める。
ルーシーは腰掛けていた窓の縁から前に出て、その身を自由にした。




