6-97 キャスメル
「それに触るでない……小汚い虫どもめが」
「……キャスメルさん!」
「誰だ貴様は?私の名を軽々しく呼ぶなど……」
その声に振り向くと、そこにいたのは少し雰囲気の変わったキャスメルだった。
その姿は、王宮を黙って抜け出てきた弱々しい時の面影はない。
それとは反対に、今のキャスメルの目は人を信頼せず、その奥には暗く冷たい光が宿っているように見えた。
「ダミーの隠し扉にも騙されずに、この扉を開けることができたとは……な」
本来なら、この空間よりも前に、本棚の本を一定の操作を行うと初めにあけた書庫とは違う部屋が現れる仕掛けだった。
しかしそれすらも、本当はこの空間を隠すためだけに造られた仕掛けだった。
だが、サヤはそのことに目をくれずにこの空間を見付けていた。
「……ハルナ。気を付けな、こいつ、ちょっと……やばいよ」
「え?」
その言葉を聞き、ハルナはこの空間に満ち始めた元素を感じると見えない空気の弾を背後に無数に浮かべる。
「ふむ……お前たち、この場所で精霊の力を扱えるとは、ただものではないな。まさか、お前たちがハルナという者たちか?……それに」
キャスメルは視線をハルナたちの傍にいる、一緒に旅をして見慣れた”人型の精霊”に視線を移す。
「なぜお前がここにいるのだ、フランム……お前”たち”、まさかワシを裏切ったのではあるまい……な?」
フランムがキャスメルの言葉に対し、何か反応を見せようとしたその時、キャスメルはその発言を視線だけで止めた。
「よい、何も語る必要はない。お前が本来来れるべき場所に居ることと、不審者二人の傍にいること自体がその答えであろうよ。言い訳は、元素に還ってから大精霊に対して語るがいい」
そうしてキャスメルは、腰の剣を抜いてハルナたちに向けて構え、視線を再び見知らぬ者たちへと切り替える。
「お前たち、ここに何しに来た?素直に答えれば、痛み無く楽にその首をはねてやるぞ」
「なんだ、どっちにしろ殺す気なんじゃん……って言っても、アタシたちも”はい、そうですか”とは受け入れがたい提案だね」
「……ならば、どうするというのだ?」
「話し合い……ってわけには行かないよねぇ?」
「……」
提案のような小馬鹿にしたようなサヤの言葉に対し、キャスメルは何の反応も示さず剣先をこちらに向けたまま構えて動かない。
それと同時に、この場所の環境に動きがみられた。
「……あ、あれ?」
ハルナの口から、気の抜けるような声が聞こえてくる。
ハルナが声を上げた理由を、サヤもフランムもすぐに察した。
この部屋の中の元素の濃度は、急激に下がっていく。
「――ちっ!?」
サヤの口からも、同じく状況の悪化を感じられる声が発せられた。
自分と同じことを感じたのならば、魔素の濃度も急激に下がっていったのだろうとハルナは感じた。
(何が起きているの?……まさかこれをキャスメルが!?)
この事態に対し、サヤの中でキャスメルへの危険度が最高値に切り替えられた。
この場……いや、この世界においてこの能力を使える者は、今までは自分とあの竜だけという認識だった。
しかし、新たにその能力を扱えるものが”敵”……しかも、もしその存在が他にいたとしても、その存在はもっと上位の存在だと考えていた。
サヤは、再びこの空間の権限を奪おうと少しだけ意識を目の前のことに割きながら能力を発動させる。
「「よせ……無駄なことを。この空間は既に我が取り戻した」」
キャスメルの口からとは、また別な場所から同時に声が響き渡る。




