6-93 王の部屋
「サヤちゃん……」
「ん？なに？」
「やっぱり優しいよね……サヤちゃんって」
「あんた、こんな状況じゃなきゃひっぱたいてるよ、その空っぽの頭をさ！」
「えっへへへへっ！」
「お二方……そろそろ静かに願います。そこの影より人が現れます」
サヤとハルナの前を行くフランムが、自分が感じた人の気配に対して、少し声が大きくなってきた二人に注意を促す。
二人はその注意の言葉を受け、それぞれが持つ贈り物用の箱を前に抱えて、少し下にうつむき歩く。
フランムから注意を受けて二十秒ほどして、通路の曲がり角の影から警備兵の二人組が姿を見せる。
「お、……っ！？」
男たちはすぐに頭を下げて、通路の端に避けてハルナたちの邪魔にならないような行動をした。
それは、ハルナたちではなく、フランムに対して行われたものだと後から聞いた。
ハルナはその行動に驚いた、元にいた世界ではそういった行動は見られなかった。
王宮精霊使い長の精霊”フランム”は、この世界では地位の高い存在なのだという。
警備兵たちはその高位の存在を目にしたとにより、自分たちの身を引き通路を譲ったのだろう。
ルーシーはこういったことも考慮し、ハルナたちに自分の精霊を付けてくれたのだと今ここで悟った。
道を開けた二人の気配が、曲がり角を過ぎ遠く感じる。
すると、二人は再び自分たちの目的の場所に向かって歩いていく音が聞こえてきた。
「フーン……そういうこと。あのルーシーって子も、なかなか考えてるじゃないの」
サヤもつい先ほどまでハルナが考えていたことと、同じ結論に達していたようだった。
「お褒めの言葉、ありがとうございます……それでは、あそこが王の部屋になります」
ハルナたちは用事を装い、柱に身を隠しながらフランムが送る視線の先を追うと、そこにはひときわ立派な扉がある。
そして、その脇には槍を抱えた騎士団の兵が扉の入口を守っている。
そのオーラは目の前を通るものすべてに注がれており、扉に入るどころか用事もなくその前を通り過ぎる事すら許されない空気が漂っている。
「さて……どうしたもんかねぇ」
サヤは用事をしているフリすらも止めて、腕を組んでこの状況をどうj切り抜けるべきかを考える。
だが次の瞬間、柱の影から出ていったのはフランムだった。
「あ！フランムちゃん！！」
ハルナに名前を呼ばれたフランムは、一度振り向きニコっと笑って見せた。
そして再び前を向き、扉の方へ向かって進み始めた。
どうするべきか迷うハルナの背中に、軽くぶつかてくる衝撃があった。
「何してんの……行くよ、ほら」
「う、うん……」
フランムの雰囲気を感じ取ったサヤが初めに真面目な表情で歩きだし、その後ろを付いていくようハルナに促す。
ハルナはサヤの気迫に飲まれ、不安が消え去りその後を付いて柱から姿を見せた。
騎士団兵は、きっとその姿を捕えているだろう……だが、顔も視線スラこちらに向けることなく、ただ扉の前の壁を真っすぐ見つめていた。
距離が近付き、フランムは扉の前まで到達する。
身体の向きを扉に向けると、警備兵は手にしていた槍をお互い交差させ警戒の意を示す。
