6-91 ルーシー・セイラム12
――ドンドン!
「ルーシー様!ルーシー様!!」
「どうした、騒がしい……入れ!」
「――!?は!失礼いたします!!」
先程と同じくルーシーを呼びに来た警備兵の男は、返ってこないと思っていた部屋の主人からの入室の許可に驚きを感じる。
扉の印は在室を示しており、これも先程と同じままの状態だった。
男はドアを開け、ルーシーに用件を伝えようとする。
「――!?」
だが男は、ルーシーのいまの状態をみて、急いで顔を背けて目を逸らした。
ルーシーは背を向けていたが、二人のメイドに衣服の着用を手伝ってもらっている途中だった。
その状態は同性ならば許されるが、異性……まして、身近でない者や格下の者がその状態を見てよいものではなかった。
「し、失礼しままました!?」
「よい……それよりもそこの扉は閉めておいてもらえるかな?」
「は、は!?重ねて申し訳ございません!?」
その言葉に男はここに来た用事も忘れそうなくらいに、この状態にショックを受けた。
男は自分に与えられた使命を全うすべく、命令された伝言を目的の人物に伝えようとした。
だがその前に、男は自分が犯してしまった失礼な行動をまずは詫びることにした。
「た、大変申し訳ございません。お着換えの途中に……そのような状態でありましたら入室の許可は後でも……」
「ふん、何を言うか。先ほどと同じ急ぎの要件で来たのだろうが?それに対して、三度目はないと判断し呼び入れた。これも仕事の内だ」
ルーシーはメイドが用意していた、一人では着衣が難しそうな服の袖に手を入れながら背中越しに男の言い訳に返答する。
男も、そのルーシーの答えによって先ほどは、自分が本当に見てはいけない状態の姿だったのだと勝手に納得した。
「それで……ここに来た要件は?」
男はルーシーの姿が、視界にいれても問題がないと思われる状態になったことを確認し、かかとを揃えて鳴らしながら姿勢を伸ばして敬礼する。
「はっ、ご連絡です!!本日投獄したグラキース山所属のドワーフ族の長と他一名が、牢屋の中から姿を消しております!警備兵はこれを脱獄と判断し、現在行方を追っております!ぜひその捜索に精霊使い様のお力をお貸しいただきたく!それと、もう一点!」
「”それと”?……なんだ?」
「はっ!それともう一点ございまして!」あの者たちを連れてきた二人の女性に対し、協力したとの容疑がかけられておりますため、併せて現在その行方を捜索中です!その者たちはルーシー様の執務室に招かれたとしてこちらに参った次第です!」
「なに?そうなのか!?あの者たちは既にメイドの案内で退室しておる、すでに報酬を受け取ってな。だが、先ほどまでこの城内にいたのだ。そうとおくへは行っておるまい?」
男はそのルーシーの言葉が、嘘を言っていないのではという結論に至った。
自分の隊長は、不在の対応をしたルーシーも一枚絡んでいるのではないかと疑っていた。
そのことはすぐに出てこれなかった理由は、着替えの前の身を綺麗にしている状況であったことと、テーブルの上に残されたカップをみてルーシーが告げたことが間違いではないと判断していた。
きっと偽替えを手伝っているメイドたちも、本来はこのお茶を片付けに来たのだと男は読んでいた。
「とにかく脱獄ができる者たちだ、何か魔法を使うものかもしれん。待機中の”土”属性の者を連れていけ、防御面でも役に立つ。私も準備ができ次第現場に向かう」
「はっ!ご協力ありがとうございます!!」
そうして、男はルーシーの許可を得て待機中の精霊使い達が控えている部屋へ向かっていった。




