2-51 許可
――コンコン
アルベルトはドアをノックする。
そして、中から入室を許可される声が聞こえる。
カチャ
「失礼します、お忙しいところ大変申し訳ございません」
「うむ、よい。それよりどうした?何かあったのか?」
騎士団長はペンを置き、アルベルトたちにそう尋ねた。
自身も、部下の持ってきた書類にサインをするだけの仕事に、少し飽きがきていた頃だった。
「今回、騎士団での訓練に参加させていただく許可を頂いておりましたが、少しお時間を頂きたく」
「その理由は?」
訓練を熱望していたと思っていたが、急に話が異なり不信感を覚える騎士団長だが、アルベルトの真摯な態度に何か理由があるのではと感じ取った。
「はい。この度、ディヴァイド山脈のルート上に魔物が発生している問題で討伐隊として参加したく」
「ほぅ……」
騎士団長は一言だけ、口にした。
確かに、王宮精霊使い長が警備隊から同一の件に対して、協力要請が来ていると聞いた。
それにより商人や警備兵に実害が生じているとも聞いている。
ただ戦力に問題があり、結果的に精霊使いを送り出すことが出来ていないとも聞いている。
さらには、警備隊は王宮内の管轄である騎士団に偏見を持っており、一方的に嫌っている。
そのため警備隊は、騎士団側には決して協力要請を出さない。
騎士団も王宮精霊使いも、王家の管轄であり王家の命令のみ活動するため自由には動くことはできない。
手を貸すには、警備隊から王に協力依頼を要望してもらうしかないのだ。
だが、この者たちなら”まだ”騎士団員ではない。
それに、王選に参加する精霊使いの付き添いとして来ているなら、ある程度の腕はあるだろう。
この者たちはいつか、風通しのよい王政を作ってくれるのでは……
そんな淡い期待も抱いてしまう。
出会ってそんなにも経っていない、男たちなのに。
”掛けてみたい”そんな気持ちが生まれてくるのが不思議だった。
「よし、それに関しては許可しよう。ただし……」
条件を付けようとする騎士団長に、アリルビートの目が鋭くなる。
「……無事に帰ってこい、お前たちはまだまだ鍛えなければならないのだからな!」
「「はい!」」
アルベルトたちは、その言葉に最大限の感謝の気持ちを込めて返答し退室した。
「……頼んだぞ」
閉まりかけたドアに向かい、小さな声でつぶやいた。
そしてまた、剣の代わりにペンを握りひたすら書類にサインをしていく作業に戻っていった。
その表情は、とても穏やかで明るかった。
レイビルは大変喜んだ。
リリィからの報告で、あの者達が討伐へ協力してくれるという報告を受けた。
レイビルは、そのことを直接シエラへ報告しに行った。
「え!?」
その一報を受け、シエラは驚く。
(なぜ王選の精霊使い達が魔物討伐という危険な任務に!?)
「ど……どうされました、シエラ様?」
事情を理解していないレイビルは、不思議そうな顔でシエラを見つめる。
「い……いや、何でもない。そうか……協力できる精霊使いが見つかってよかったな」
「はい!」
嬉しそうに返事をするレイビルの姿を見て、シエラは何も言えなくなった。
「……今後その件に関しては、私が引き継ぐ。大丈夫、悪いようにはしない。なので、レイビルは引き続き指導に力を注いでほしい」
「畏まりました!」
満足そうに、シエラの部屋を退室していくレイビル。
「ハイレイン様とローリエン様に指示を仰ぐか……」
ため息交じりに、そうつぶやいた。
「やっぱりあの者たちは、何か持っているな!」
声を高くして笑うのは、ハイレインだった。
「確かあのルートで問題になっているのは、集団で行動するコボルトでしたよね?」
「はい、そう聞いております」
ローリエンの質問に答えるシエラ。
「初めてのパーティにしては、ちょうどよいかもしれませんね」
「そうだな。難易度としては申し分ないな」
「え!?し……しかし。何か起これば、王選に影響が出る可能性もあるのでは!?」
何の問題もないといった感じで話す二人に、シエラは驚きを隠せない。
「王選の旅の時は、もっといろんな出来事が起こりえるのだよ……シエラ」
「そうです。この程度で大事になるなら、王選なんて絶対に無理ですよ」
「で……では?」
シエラは、恐る恐る確認する。
「問題はない。そのまま、充分に準備をさせて討伐に向かわせるがいい」
「か……畏まりました!」
「……というわけで、討伐隊への参加の許可が下りた。お前たちは警備隊と協力し、見事討伐対象を壊滅させてみせよ!」
シエラは、部屋に集まったハルナ達にそう告げた。
「それと今回は、リリィを同行させる。準備に関する問題や要望があれば、リリィに申し付けるがいい。それとリリィは、作戦の内容やスケジュールなど決定したことは、逐一報告しなさい」
「はい、シエラ様」
「それでは、詳細をドイルさんと打ち合わせに行きましょうか」
ルーシーがそう告げて、一同はルーシーの後を追い部屋を出ていく。
「頼んだぞ……」
閉まったドアに向かって、シエラはため息のような独り言をつぶやく。
ここはお城の敷地内にある、城から少しだけ離れた場所にある警備隊本部。
ドイルはここにいた。
ハルナ達は警備隊本部の入り口に到着し、前にいる警備兵に頼んでドイルを呼び出してもらおうとした。
がしかし、なかなか取り次いでくれず、逆に不信に思われている。
そこにリリィが遅れて到着し、いまだドイルと会えていない状況に驚いた。
「だって、いくら言っても信じてくれないんだもん!!」
エレーナが怒り気味に、リリィに説明する。
「わかりました。私が話してきます……」
リリィは入り口の警備兵に、王宮精霊使いとして受けた協力要請に応じてやってきたことを告げた。
警備兵はようやく、話を信じてドイルに取り次いでもらえた。
結局信用されたのは、王宮精霊使いの白いローブを着用しているというところだった。
ようやくドイルと出会えたのは、ハルナ達が来てから三十分も後のことだった。




