6-44 派閥
「やっぱりさ……アンタたちの中にも派閥みたいなのがあるの?」
この失礼な女は、突然現れて本来この場にいてはいけないはずなのに居座り、あまつさえ悪びれることなく王子との会話に平気で口を挟んでくる。
ステイビルが何も言わないということは、この女に与えられた地位は相当なものであると隊長は判断した。
だが、隊長もどこの者か分からない”女”からの質問に素直に答えるのは癪に障り、さらに質問で返した。
「なぜ……そんなことを聞かれるので?」
「え、なんでかって?……それは、アンタと接触しようとしたとき、ステイビルはタイミングを伺っていたからね。それって、自分の味方がいるかどうか観察していたってことだよね?実際にアンタたちの警備のパターンが五つのチームに分かれてることが判ったんだ。もし、”元”王子が命令できるなら、接触するのは誰でも良かったはずだろ?でも、こうして人を選びながら接触しているってことは……そうじゃないかと思っただけだよ」
この女がただの一般の者だとすれば、王子や自分に対して使う言葉や態度としては、決して許されるものではない。
しかし、分析や判断の内容は普通の――この世界基準だが――者たちよりも優れていた。
隊長は部下の一人に目をやり、部下は頷いてそれに応える。
「実際は……その通りです。ここだけの話ですが、王選が始まる前に次の王にどちらが就くかということで警備兵や騎士団の中、精霊使いの者たちにもその話題が広がっていきました……」
そして、王宮内ではお互いの支持する派閥で小さな争いが起きるようになり始めたと隊長の男は言う。
そこから、王国の防衛や内政面でも関係性での錆付きが出始めたせいか、時には自分たちの命まで危険な状態にまでなってしまっていた。
そこで王宮では、今回の件について一つの命令を出すことでこの事態を収束させようとした。
”――自分たちがどちらの派閥かを決して口にしないこと”
この命令は、王国に携わる職に就く者たち全員に適応された。
発言や思想の自由はこの王国でもある程度は認められているが、国民や仲間の命を守るもの同士がどんな理由にせよ争っては、その土台が揺るぎかねない……実際には、既に崩れかけているような状況だった。
この命令を破る者はどのような位の者であれ、その地位を剥奪し国外追放するという罰則を設けた。
その効果もあり、国政は再び平穏を取り戻した。だが、人が浮かべる心の中の思いまでは止めることはできなかった。
「……それに一度右と左に分かれてしまっては、もとの無かったころに戻すことは難しいものです。王国が危惧していた問題は完全に解決しておらず、今でもその炎は消えることなく燻り続けている状況です」
その説明に対して、ステイビルは何の言葉を発しない。
それどころか改めて聞くこれまでの流れに、自分たちの存在が王宮を分断してしまった火種となったことに責任を感じているようにも見えた。
ハルナは、そんなステイビルの背中に手をかけてあげたくなった。
「フーん……でも、まだステイビルの味方はいるってことだね。やっぱり、やっちゃったら?”政権奪還”」




