6-43 突然の来訪者
「……というわけで、再びドワーフとエルフたちとの話し合いの場を設けたいのだが。もちろん、”一般国民”の私がこんなお願いをすること自体失礼なことと充分承知はしている。だが……いや、ですがぜひともこの無意味な争いを終わらせるためにもぜ王国に取り次いでもらえないでしょうか」
ステイビルの話を聞いた隊長は、突然のことに判断を迷う。
夜間、警備室で仮眠をとろうとしていた隊長は、部下のノックでようやく落ち着いた気持ちが再び緊張の中へ引き戻された。
「――何事だ!」
呼ばれた隊長は寝かせた身体を起き上がらせ、ドアの向こうで待っている部下に対して声をかける。
「はっ!至急お取次ぎしたいことがございまして参りました!入室の許可をお願いいたします!」
報告の際に、軍には無駄な時間を省くために多くはない決まりがある。
緊急時で重要度の高い場合は、その警備時間を預かる部隊の隊長に休憩時間でも報告をすることになっていた。
緊急時とは、現場では解決できないため隊長にその判断を仰がなければならない状況ということ。
決められた重要度の高低があり、低い場合にはその案件を扉越しに報告する。
高い場合については誰が聞いているかわからないため、直接耳元でその内容を報告することになっていた。
今回、その報告を扉の向こうで報告しないということは、緊急度が高い案件であると判断した。
扉の向こうの声はよく聞く部下の声だったが、万が一のため近くに置いてあった剣の鞘に手にして入室を許可する。
「失礼します!」
そう告げてよく見る部下が、部屋の中に入ってきた……その後ろに、見覚えのある顔の人物を背後に。
「す、ステイビ……っ!?」
その名を全て告げることを、相手の口元に当てられた人差し指によって制された隊長は、とっさに自分の口を両手で塞いだ。
そして、その後ろに今まで見たことのない二人の女性の姿も視界に入ってきた。
ステイビルは、森の中からグラキース山のふもとに陣を構える警備兵のことを観察していた。
そして、信頼のおけそうな者が隊長を務める隊で、しかも活動が落ち着く夜の警備の時間帯にその者への接触を試みた。
ステイビルは法律としては一般国民であるが、それでもいまだに慕ってくれている者たちもいる。
過去の権力に頼ることは嫌だったが、今回ばかりはこの流れを断ち切らないために何でも使うという意気込みで臨んでいく。
「……。ですが、いまのお話は……その……信じても?」
「あぁ、問題ない。私も、最後の役目として今回のことに臨んでいる……元々私がまいた種なのだがな」
「いえ!?そうではありません、ステイビル王……っと、ステイビル様!あれは、明らかに裏切った”あの者”が悪いのです!王子がその手で跳ねられた首……本来であれば我らの役目。王子……今はあえてそう呼ばせていただきます。王子の手を穢してしまったことを……今でも後悔しない日はございません!!」
「そう!そのことなんだけどさ……ちょっと聞いていい?」
ステイビルと話していたところに、突然別の者が話しかけてくる……しかも、ありえない程に馴れ馴れしく。
隊長はむっとしたが、ステイビルガ連れてきた者であるためそのことを表面に出さず、言葉に力を込めて今の言葉に応えた。
「どうぞ……何をお聞きになりたいのですかな?」




