6-36 危険な存在
イナたちがこの場からは離れ、ステイビルたちに簡単な食事と寝具とも呼べないやや厚みのある布が一枚ずつ鉄格子の向こうから渡された。
警備のドワーフは用事が終ると、早々にその場から離れていった。
自分の身に何かが起こらないうちに……
警備の間の中で、良からぬ噂が流れていた。
”あの人間の女の一人は危険だ”――と。
その噂は、先ほどのデイムに付いていた警備員から始まっていた。
一部の者しか知らない秘密を見ただけで暴く力……”魔眼”の持ち主であるという噂が、この短い間に広がっていた。
その噂の根幹は、最近ドワーフの警備兵の中で流行りつつあった小説の主人公がこの”魔眼”を使って様々な問題を解決していくという内容の物語だった。
そのことをデイムに告げると”創作の物語と現実を一緒にするな!!”と叱られたが、その警備兵は間近で見たことが信じられず完全に否定をすることができなかった。
警備兵が去った後、再び薄暗い空間が戻るとステイビルは先ほどのことをハルナに確認した。
まずは、イナが嘘を見抜く力があるのかということ。
これに関しては、ステイビルにもある程度納得のいくものがあった。
ドワーフとのやり取りの中で、ステイビルが口にしたことは答えられなかったものも含めて、嘘偽りのない返答だった。
そのことに対して、イナはステイビルに不快感を表すことはしなかった。
そして、その後のハルナの言葉に対しての驚き具合から見ても、イナが相手の嘘を見抜く力を持っているということは正しいのだという確信があった。
ハルナは、サヤが用意してくれた設定を有難く利用しながら誤魔化しながらステイビルの考えで間違ってはいないと説明する。
ハルナ自身も実際にどのような形でその見分けを付けているのか、魔法についての知識もないためその能力についての詳細は判らないというのが本音だった。
「……そうですか。しかし、ドワーフの方々との交渉ができる余地ができたのは幸いでした……サヤさん、ありがとうございます」
「……ん」
サヤは下に敷いた布の上で既に横向きになって目を瞑っていたが二人の話は聞いていたのだろう、片を上にしていた腕で手をあげてヒラヒラと振った。
冗談なのか本気なのかはわからなかったが、サヤがステイビルに政権を奪うことを提案したことによりイナたちも何か今までになかったものに新しい道が開けたようにも見えた。
「こればかりは、向こうの判断を待つ他はないな……」
ステイビルは、そう独り言のように呟く。
そして、もう一つの出来事に対して思考を切り替えた。
”水の大竜神――モイス”
ハルナは誤魔化していたが、その存在については知っているのだろう。
どこでどのようなつながりがあるのか、ステイビルはそのことを聞きたくなった。
自分が加護を受けていない神とのつながりを。
「ハルナさん……先ほどの……」
そう言いかけたところで奥から物音がし、ステイビルは言葉を止めた。
奥から、ニナとサナが警備兵に付き添われながら姿を見せる。
そして、結合子の前に立ちニナが中の者たちに告げた。
「サヤ……ハルナ。二人は出てきて、私たちに付いてきなさい」




