6-12 てみやげ
エストリオ達が去り、その姿が見えなくなったと同時に、ステイビルはそのまま意識を失ってしまっていた。
その時サヤは、”育ちがいいと気絶した時の姿勢もいいんだねぇ”という笑えない冗談を口にした。
それに対してハルナからの厳しい視線を送られ、目をそらし人差し指で痒くもない頬を掻いた。
そして、その冗談を挽回するかのように思いついたことをサヤは告げる。
「あ!ねぇ……あのこの町に入れてくれたあの男のところに行こうよ!ステイビルの味方っぽかったじゃない!?……ね?そうしよう、ね!?」
何かサヤから誤魔化されているような気もしたが、ハルナは今それ以上の良い行動が思い浮かばない。
ハルナは仕方ないと思いつつ、先ほどのことは後でしっかりと怒らなければと心に留めておいた。
そしてハルナはサヤに手伝ってもらいながらも、意識をなくしたステイビルを背負いサヤを前にして町の外れの材木屋を目指して歩いていく。
その際、ハルナは誰かに襲われないように自分たちの周囲に透明な風の壁を作りながら進んでいった。
その店は、今日は店休日なのか表の入口は閉まっている。
ハルナたちは店の裏に回ると、そこは広い加工された材木が積まれてあった。
奥には乗せてもらっていた馬車の荷台が、馬を外された状態で置かれていた。
店の裏には、勝手口と思われる引き戸がみえた。
サヤは、ここだと言わんばかりにその扉をドンドンと叩きつけた。
「はーい、”お届け物”ですよー。誰かいませんかー!」
「もう、サヤちゃんったら!?フザけすぎだよ!!」
その声に反応したのか、扉の向こうから慌てて近寄ってくる足音がした。
そして扉の閂を引き抜き、木がすれる音を立てながら引き戸が開いた。
「やぁ、早速お邪魔しに来たよ。お土産も……持ってね」
「こんなに早くお邪魔してすみません……」
先ほどまで一緒にいた見慣れた顔の男は、ふざけているサヤよりもハルナに対して対応した。
「やはり、あなた方でしたか。いえ、良いのです……で、その後ろの方は?」
「はい……”ステイビル王子”です。少しの間、匿って……え!?」
男はステイビルの名を聞き、その驚きのあまり後ろに倒れ込んだ。
その様子をみてサヤはクスクスと笑っているが、ハルナは男が怪我をしていないか心配した。
「大丈夫ですか!?」
「あ……はい。すみません、ちょっと驚いてしまって……そ、それよりも!早く中へ!!」
「は……はい!?」
ハルナはここまで、成人男性であるステイビルをここまで背負ってきた。
本当は変わるか手を貸してほしかったが、後で聞くと王子だった人物に気軽に手を触れることは出来ないと言って謝られた。
ハルナは前の世界でステイビルとはずっと同じ時間を過ごしてきたため、そういったことは思いもつかなかった。
だが、普通の市民からすれば今は元であれ”王子”とはそういう存在なのだと改めて感じた。
男はこの店の中で一番きれいなシーツを敷いて、その上にステイビルを寝かせてもらうようにハルナに告げた。
そして寝かせたことを確認した後、責任者を呼んでくるといって他の部屋へ向かっていった。
「あいつが店主じゃないんだ……ってそれより、ハルナ……アンタ気付いてる?」
「え?……何が!?」
ハルナはサヤの今までの行動に対し、消化できない怒りを抱えていたため、乱暴な返事となってしまった。
サヤは、今までのことを挽回しようとハルナに気付いたことを伝えた。
「もぅ……ごめんって。それより、こいつ。ステイビルの身体、瘴気に犯されてるよ」




