5-141 誰かの映像
ハルナは記憶にはない洞窟の中にいた……いや、ここにいるというよりも、ネットで動画か何かを見ているような感じだった。
それは、誰かの記憶の中を見せられているような流れで、ハルナの意思に関係なく進んでいった。
「こ……ここは?……あ!サヤちゃん!?」
その呼びかけに対して、サヤはハルナの言葉に応えない。
むしろその音は、この場にいる誰にも届い通らず、ハルナの頭の中だけでその声が響いていた。
そこにいたのは、サヤと対峙したオスロガルム。
その近くには、あのヴェスティーユの姿があった。
音は聞こえないが、何か話し合っているように見える。
オスロガルムは来方からヴェスティーユに拘束され、サヤから攻撃を受けてダメージを負っている。
だが、それは決定的にはならず、オスロガルムに反撃を受けることになる。
オスロガルムはヴェスティーユの拘束を難なく腕を引き千切ることで回避し、開かれた口からは高濃度で圧縮された瘴気が見えていた。
音はなくとも、それが危険なものであることはハルナにも理解できた。
ハルナは逃げ出そうとしたが、この身体ではこの場から逃げられない。
サヤも危険を感じ何かを言っている、きっとここから逃げ出そうと言っているのだと感じた。
むしろ、オスロガルムに向かって歩いて行った。
オスロガルムは、この瘴気を制御するために他の行動をとることはできなかった。
傷付いて倒れているヴェスティーユの身をサヤの方へ投げ、自分の背後に瘴気の壁を造りこの洞窟を塞いで見せた。
ここでハルナは自分が見ている情景が、あのヴァスティーユのものだと気付いた。
ヴァスティーユが、ヴェスティーユを助ける行動に出たことにハルナは驚いた。
しかしそれに気付いたところで、この爆発しそうな瘴気をハルナが止めることは出来ない。
ハルナは全身に力を入れ、これから起こることに身構えながらも状況を見守った。
泣きながらヴァスティーユの名を呼ぶ……だが、サヤはそんなヴェスティーユを掴んで洞窟の出口まで走った。
それは、きっと残された時間がもうわずかだということを知っていたのだろう。
悲しくはないが、少しの罪悪感がヴァスティーユから伝わってくる。
ハルナは、ヴァスティーユがサヤとヴェスティーユを逃がすために身代わりになったのだと悟った。
しかし、この状況はこれで終わらなかった。
動けないと思っていたオスロガルムが、ヴァスティーユの首に手をかける。
ヴァスティーユは、洞窟に造った壁を維持するためにその行動に対して抵抗しなかった。
そのため、ヴァスティーユの首は容易く握りつぶされた。
ヴァスティーユは”生きた人間”ではないため、その攻撃に対して二人を守る行動に影響はなかった。
だが、オスロガルムの目的はそれとは違うところにあった。
オスロガルムは、自分の中の魔素をヴァスティーユの体内に注ぎ込んでいく。
ハルナは実際にやられているわけではないが、ヴァスティーユの感情から伝わってくる感覚は耐えがたいものだった。
自分の身体の中に別の意識が強制的に入り込み、自分を乗っ取ろうとしていた。
それに抗おうとしたが、ヴァスティーユは壁を維持することに全力を注いだ。
これが爆発してしまえば、乗っ取られた身体も塵となって消えてしまう……そのくらいの威力を持つものだった。
そして、オスロガルムが侵食することに抗っていたヴァスティーユの意識が途切れた掛けたところで、オスロガルムの瘴気は爆発した。




