5-126 だましあい
『来たか、サヤよ……ずいぶんと逃げ回っていたようだな』
洞窟の入り口ギリギリに降ろされたサヤはそのことを不快に感じ、ここまで運んできた悪魔を睨みつける。
睨まれた悪魔は声も出さず、自身の運命を悟ったのか声も出さずただじっと視線を受け続けその時が来るのを待つ。
サヤは悪魔の頭に手を伸ばす……が、その手はサヤよりも背の高い悪魔には届かない。
次の瞬間、サヤが広げていた掌を握ると、ブシュッっと音を立てて悪魔の頭が潰さ黒い霧となってその姿は消えていった。
一緒に現れたヴェスティーユは、何も言わずにサヤの後ろからその様子を眺めていた。
『お前が他の者のために動くなど……珍しいな。それほどこの者が大事な存在なのか?』
「ヴァスティーユに頼まれたからね。それと、アタシの目的を果たすために……だよ」
『ほぅ……目的とな。それは、ワシを殺してこの世界を消し去ることか?』
「そうよ、名前を付けてあげた私のために死んでちょうだい……オスロガルム!?」
サヤは掌をオスロガルムに向け、無数の黒い瘴気の弾丸を打ち込んだ。
それに対してオスロガルムも掌を向け、その攻撃を全て防いでみせた。
シュナイドやラファエルたちが攻撃した際と異なるのは、サヤのその攻撃は直前で避けられるわけではなく、全てオスロガルムまで届いていたということだった。
攻撃が止んだことを確認し、オスロガルムは防ぐために突き出していた手を数回振って払い何事もなかったように
『どうした、サヤ……その背中にある剣、使ってもよいのだぞ?』
「馬鹿だねぇ……大技はね、”ゲージを削った後”じゃないとってのは鉄則なんだよ!!!」
そう叫んだサヤは、先ほどと同じ攻撃をオスロガルムに仕掛けた。
オスロガルムも、また同じような行動にうんざりしながら片手を上げてその行動を防ごうとした。
――ガシッ!
『むっ!?……ぐおっ!!!』
オスロガルムの行動は、自分の意思以外の何かに止められることになった。
そして、その行動によってサヤの攻撃は全てオスロガルムにダメージを与えた。
オスロガルムが首だけで振り返ると、そこには拘束のとれたヴェスティーユが背後から抱き着くようにしてオスロガルムの動きを封じていた。
『ヴェスティーユか!?……小癪な真似をしおって!!!……フンッ!』
「――う……ギャァあああぁぁあっっ!!!」
ヴェスティーユの左腕は肘からちぎれ、皮とその下の組織だけでぶら下がっていた。
「……あ」
黙ってただその様子を見ていたサヤは、この状況がどのように転ぶのかただ見守っていた。
もしも隙があれば、この背中の剣をオスロガルムに突き刺すタイミングを伺いながら……
――次の瞬間、サヤも予測していない状況が起きた




