5-109 闇の世界8
「……なるほどね、そういうわけだったの。アンタも苦労したんだね」
『……』
サヤから掛けられた気遣いの言葉に、存在を示している意識は何も反応を示さない。
そのことに対してサヤは何も感じず、聞かされた話の中で気になっていたことを問い質した。
「で、アンタはいまどうしてここに出てこれているの?意識だけで、あの場所から出られなかったんじゃないの?」
『それは先ほど、お前の一部を頂いたからだ。どういう理由かはわからぬが、あの場所から抜け出すことができた……礼を言う』
「それが、”相性”ってやつなのかね?アタシの身体が、アンタにあったっていうか……」
『あいしょう……それがどういうモノか分からんが、お主だけがワシに変化を生じさせたことは確かだな』
「そうね、それが事実だね。アタシも、ここがどこかも分からない場所に来たこともそうだしさ」
それでも、サヤはなにも分からないこの世界に来たときよりも、今の方が気持ち的に楽になっていた。
姿こそ見えないが、話しかけたことに対して言葉が返ってくることが、数日間一人きりだと思っていた鞘にとっては希望となっていた。
「それじゃあ……約束通り、アタシの身体を取っていいわよ。アンタのその魔素を扱える能力ももらえるんでしょ?できれば、アンタが今まで知ったことも教えて欲しいんだけどね」
『あぁ、わかった……お前の望むようにしよう』
「で、どうすればいいの?」
『先ほど、穴に入れた方の腕を出すがいい……その傷からお主の体液を頂き、そこにワシの力を入れる』
「おっけ、痛くしないでね……って痛みは感じないはずだけどさ……っとその前に」
『……なんだ?』
「アンタのさ……名前を教えてよ」
『ナマエ……なんだそれは?』
「名前って、アンタのことを認識したり読んだりする呼び名よ」
『そうか……今までの生き物たちは、お互いの仲間を匂い、音、形で認識していたからな。このように意識で伝わるのなら、そういう呼びかけるためのモノが必要ということか……ワシにはそういうモノはもってはおらんよ、好きに呼ぶがいい』
「うーん……そうねぇ」
サヤは腕を組んで目を閉じて、この存在に似合った名を考える。
「……あっ!」
サヤは何か思いつき、左の掌の上を右の手で握った拳を打ち付けた。
「アンタの名前……”オスロガルム”ってのはどう!?」
『オスロ……ガルム?』
「そう。あたしがね、創ってたゲームのボスの名前なんだ。結局途中で挫折したんだけど……シナリオは出来上がっていて、プログラムしてる途中で……こんなことになっちゃったんだけどね」
『……全体的に何を言っているのかはわからんが、どのように呼ばれようが一向にかまわん』
「そ、そう?もうちょっと喜んでもらえるかと思ってたんだけど残念ね……でもいいわ。じゃあアンタはこれから”オスロガルム”ね」
『それでは、お主のことは……”アタシ”と呼べばいいのか?』
「はぁ!?それは第一人称で、自分のことを指す呼び名なの!……アタシの名前は小さい夜って書いて、サヤっていうの、よろしくね」
『うむ、サヤ……か。わかった』
「それじゃ、オスロガルム。さっさとやっちゃって!」
そういってサヤは、ボロボロの服の袖をまくり傷が付いてところどころ赤くなっている腕をオスロガルムに向かって突き出した。




