5-97 改心
「おかえりなさいませ、ステイビル王子」
「うむ、いつも出迎えすまんな。ジェフリーよ」
ジェフリーのその手には小さな手が握られており、手を離すと一人ではまだ立つことが不安定な子供と一緒にいた。
その娘の名前は”アン”といい、ジェフリーとその妻であるメイとの間に授かった子だった。
王都の施設を預かっていた時の態度も似合わなかった服装も、今では随分と落ち着いた様相をしていた。
「いえ、私どもが王子のお役に立てるのであれば……さ、どうぞお疲れでしょう。さ、行こうかアン」
そうしてジェフリーは、両手を挙げて自分の身を引き上げてもらう体勢をとる我が子を両手で抱え上げて自分の首に抱き着くように抱き、後ろを振り向いて集落の中へ歩いていく。
ステイビルたちを気遣うその言葉も、以前のような何かを含んでいるような様子はない。
心からステイビルたちの役に立ちたい……あの日の失態を詫びる気持ちが充分にに伝わってくる言葉だった。
あの日ハルナと一緒にいたエレーナも、変わった姿には信頼できるようになっていたし、子供に懐かれるエレーナもその親が悪い人物とは信じたくなかった。
ハルナと別れた後、ブンデルとサナもこのことをそれぞれの種族に伝えるため、ステイビルたちと別行動をとりたいと言った。
ステイビルもこれから起こる災害に、他の種族の力も貸してもらえたらとそのことを承諾した。
サナにシュナイドが付いているため、何かあったときにはモイス経由で連絡するとのことだった。
だが、これまで一度も連絡がないため、何の問題も発生していないのだろうとステイビルは判断していた。
そうしてステイビルたちは次に、風の大竜神”ウインガル”と遭遇した。
ウインガルの加護により、精霊使い達は元素を扱うことのできる量が増加した。
それによってエレーナもオリーブも今までできなかった精霊の力の変化が生じ、新しいこともできるようになっていった。
次に向かうべき場所を探して位時、最近できた新しい集落があるとの情報が入ってきた。
その集落では主に農作物を生産しており、その規模は今や近隣の各町や集落には欠かせない存在となっていた。
それだけではなく、希望者には移住を許可しこの集落で仕事を与え、困っている者たちを助けるということも行っていた。
ステイビルは一度その集落の様子を見ておきたいと言い、今までに進んだことのない場所の捜索も兼ねてその集落を尋ねることにした。
そこは偶然にもジェフリーという名の者が営む集落だった。
あの場所のできごとから屋敷に勤めていた女性と結婚をし、いまではこの集落を取りまとめる人物になっていだという。
元々コリエンナルという家を名乗ることを許されるほどの実力はあった。
その力量を正しく使えば、このようなことができるとステイビルはジェフリーのことを見直していた。
「ジェフリーよ、随分と変わったようだな」
「ステイビル様……あの時、自分の愚かさを痛感しました。妻のメイが私と一緒に来てくれなければ、私はすでにこの世にはいなかったでしょう」
「アンちゃんもいることですし、しっかりしないとダメよね!」
「ははは、そうですね。エレーナ様。さぁ、アン。エレーナ様はお疲れなのだ、こっちに来なさい」
だが呼ばれたアンはエレーナの居心地が良いのか、離れようとはしなかった。
「大丈夫ですよ、アンちゃんの重さなら大したことないですから」
そういってエレーナは借りている家の前まで、アンを抱いたまま歩いた。
その夜、ステイビルに王国から使者が伝言を持ってこの集落までやってきた。
「王子!王からの伝言です!こちらを!」
そうして騎士の一人は、ステイビルに木箱を差し出した。
それを開けると、その中には水晶の玉が一つ入っていた。




