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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第五章 【魔神】

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5-50 ボーキンの覚悟








既に屋根裏や二階部分は崩壊状態となっている。


今残っている部分は、土の精霊使いが作ってくれた一階の防御壁の部分のみとなっていた。


対人や下級の魔物であれば、この中でも充分な応戦が可能だっただろう。

頑丈な壁は四方向の身となっており、上部は無防備な状態となっていた。


攻撃を受けボーキンが一階に降りた後、そこには既にエルメトの姿はなかった。

あの後、数匹の魔物を消滅させたが、エルメトの後を追った魔物はいなかった。

だがあの兄妹の話では、取り逃がさないように山の中にも魔物を配置させているようだ。

魔物たちがなぜここまでの襲撃を行っているか、その理由は不明だがそんなことを考えている余裕はボーキンにはない。

最初は余裕を見せて単体で襲撃してきた魔物は、複数で一人で抗戦するボーキンに迫っている。

当然これを卑怯だというつもりはなく、ただ少しでも他の者たちが生き延びることができるようにと、いまある総ての能力を出し切るためにこの場に立っていた。


しかし、ボーキンも退役して長い時間が経過する。

個人的に兵の経験がある二人の若者に対し、訓練と称してトレーニングを行っていた。

それでも、年による老化には抗うことはできなかった。



心臓と筋肉が悲鳴をあげながら、目の前の魔物に命をたやすく狩らせないようにしていた。



最初に手にしていたハルバートも、朽ち果ててしまい相手をしとめる道具にはなっていなかった。

今手にしている剣も既に二本目となり、次の攻撃で最後の一本へと交換しようと思っていたところだった。

それほど魔物の爪は硬く、ダメージを与えるために弱い箇所を切りつけようとしても学習したのか、対応されるのようになってきていた。

一人での応戦に限界を感じつつも、今この場には自分一人しか対応できるものがいない。

その思いから、ボーキンは必死にかつ冷静に剣と盾で残り七匹の魔物を相手にした。



その中でボーキンは徐々に、亡くなった息子のセイムのことを思い出し始める。

セイムのことを思い出すと、死に対する恐怖がなくなってくる。

”ようやくあの子の元へ行けるのだ……”と。


その反面、いま残している最愛の妻や、自分に慕いついてきてくれた”わが子”のような二人を無事に生かすために、もっと魔物の数を減らさなければという思いもある。


今この宿を襲撃している魔物の数よりも多くの魔物が王都にはいるはず。

ここで魔物の数を数体減らしたとしても、魔物の戦力としては大した戦況の変化は起きないであろう。




だが、守るべき者たちのため。

別行動をとらせた、希望の種が花を咲かせるためにボーキンは剣を振るい続けた。


しかし、状況の変化が訪れた。

防御の要である盾が、度重なる魔物の攻撃に耐えられなくなり壊れてしまった。

ボーキンは取っ手から上部半分が形を失った盾を、最後に魔物に叩き付けた。

それと同時に、刃が欠けた剣を魔物に突き刺した。

だが、それがその魔物にとって致命傷とはならなかった。


ボーキンは最後の一本の剣を鞘から抜き、両手で構えて魔物と対峙した。

残り七匹の魔物を、この剣一本で相手をしなければならなかった。



(スィレンよ……今までありがとう)



ボーキンはそう心でつぶやき、覚悟を決めた。

もう自分の身を守る防具は何もない、一本の剣と残された体力だけで攻撃かつこの身を守らなければならない。


「うぉぉぉぉおおぉおおぉおおお!!!!!!」



ボーキンは雄たけびをあげ、一匹でも道連れにしてやろうと魔物に襲い掛かった。

剣が突き刺さった魔物の首をはね、その姿が黒い霧となって消えていく。


残り六匹の魔物は、二匹ずつ三組となりボーキンに襲い掛かる。

身体を動かしながら、相手に的を絞らせないようにボーキンは動いていく。

それと同時に、魔物に切り付けながら魔物との攻撃に立ち向かった。


最後に、アクシデントがボーキンに襲い掛かる。

魔物の一匹がボーキンに体当たりをする、その衝撃にボーキンは握っていた剣を手放してしまった。

その頃にはもう、握力はほとんど残っていなかった。

そのため、剣は地面に落ちて回転しながら遠くへと離れていった。



ボーキンは疲れから、片膝を地面について肩で呼吸をする。

そして上を見ると、一匹の魔物が掌に黒い瘴気の塊を用意していた。

それを何の合図もなく、今まで動き回っていた獲物に対してぶつけようと放った。



その瞬間、ボーキンの時間はゆっくりと長く感じた。

だが、その黒い球体は徐々にボーキンの元へ近付いてくる。


(セイム……)



ボーキンは息子の名前を呼ぶ。


(スィレン……)



ボーキンは愛する妻の名前を呼ぶ。



黒い球体は目の前まで接近していたが、ボーキンは目を閉じることはなかった。

できれば魔物が獲物をしとめたと満足して、戻っていくところまで確認をしたかったから。




そして、ボーキンの目の前は白い光に包まれていった。












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