5-22 危険な場所
辛みの強い食事ではあったが、その中に隠された果物の甘みなどが隠れており辛さだけで飽きさせない工夫の感じさせる料理だった。
ハルナとエレーナの額には大粒の汗が浮かんでいるが、ソフィーネには全くその様子が見えない。
”どうやって?”と問えば、その答えは”気合です”というまったく参考にならない言葉が返ってきたのだった。
お腹と何気ない会話で気持ちが落ち着いたころ、テーブルの上にはこれからの談話に必要なお酒やお茶だけが残っていた。
「ねぇ、ソルベティ。あの蒸気が沸き上がっている場所って……なんなの?」
エレーナは、マーホンに新しい果実酒を注がれながらソルベティに質問する。
「あの白い煙が噴き出ている場所は、とっても危険な場所なんです。ですが、この町にはなくてはならないもので……」
「なくてはならない……って?」
「はい。それは……」
聞けば、あの白い蒸気は可燃性の気体だった。
気体自体は無色微臭で、熱によって白く見えているとのことだった。
その気体は濃度の高い場所では。五分もいれば命がなくなってしまう猛毒ガスだった。
可燃性というところから、そのガスを町に引き込めないかと試行錯誤をした。
そしてドワーフの力を借りることができ、そのガスが噴き出ている地表から管を通しその費用を出した希望者各施設の中に管が引かれているという。
フレイガルでは、そのガス自体は町に無償で提供されており、配管に関する費用だけ徴収していた。
フレイガルは年中温かい気候の場所のため、火を常時使う場面は調理や湧き出た水を加温して浴場などで提供するといった使い方が、ガスの主な利用方法となっていた。
過去には何度か爆発を起こしており、供給施設の火災も起きていた。
扱いは難しく命が奪われる可能性のあるものだが、精霊使いや燃料に頼らず常に火を使用できるという面でフレイガルでは重宝されていた。
「その正体……いや、なんといえばいいか。その、なぜそんなガスが噴き出ているかはわからないのか?」
「はい、王子。昔は、人の命がかかわるため、いくつもある吹き出しの穴を塞ごうとしていたようです。しかし、吹き出し口は無数にありますし、その作業中に命を落とすこともあったので、今では”むやみに近寄らない”ということで対策をしているようです」
そこで、ハルナは自分のいた世界の話を持ち出した。
日本の中でも、火山が近くにある山にはガスが噴き出ている場所がいくつかある。
可燃性かどうかは別として、人の命に危険なガスは火山の活動が活発な際にはガスの噴き出す量が増えたりしたこともあるという話をした。
ハルナの話しを聞きソルベティはこの近くには火山はなく、活発にな火山性の地震も起きていないという。
なぜ、そこまであの危険な場所に興味があるのかがソルベティには判らなかった。
そこで、素直にその理由を問いかけることにした。
「王子……そこに、何かあるのですか?」
その言葉を聞き、ステイビルは一度この場にいる者たちの顔を見ていく。
特に反発するものもいないと感じたため、ステイビルは今まで馬車の中で話しあった考えをやや声を落としてソルベティに伝えた。
「ソルベティ……我々は、そこに大竜神様か大精霊様がいらっしゃるんじゃないかと考えているのだ」
「えぇっ!?……こんな、近くに……ですか?」
「あぁ……ただの”勘”でしかないがな。確かに、一番最初にお会いした水の大竜神――モイス様は、険しい山の上におられた。険しいとはいえ、生き物がいけない場所ではないかった。そういうところに、お隠れになられているんじゃないかと考えているんだ」
既に水の大竜神とはどこかで会っているという話を聞き、ソルベティはお酒のせいもあって考えがまとまらなかった。
ただ、一つ分かったことは、ステイビルたちが本当に王選の旅をしているという事実だった。
「ソルベティ、あの場所を案内してもらえないだろうか?」
その話を聞きソルベティの中にも、ハルナたちに協力をしたいという気持ちが沸き上がっていた。
「わかりました。明日、あの一帯を管理している部署に許可を申請してみます」
「すまないな、よろしく頼む」
そうして、フレイガル初日の夜は大した問題もなく無事に終わりを迎えた。
翌日、ハルナたちはフレイガルの町を見て歩いた。
宿泊場所にはソフィーネが残っており、そこにステイビル宛ての一通の通知が届いた。
それは、ソルベティが申請していたガスが噴出している場所への立ち入りを”認めない”という内容の書簡だった。




