5-14 キャスメルの憂鬱4
チュリ―の言葉に、キャスメルの顔から表情が抜け落ちる。
(そうだ……この者たちも、私のことを本当にわかってくれているのだろうか?……ハルナやエレーナは私のことをよくわかってくれていた……はず。あぁ、もしかしてこの旅がうまく行かないのは私のせいではなく、この……)
「キャ……キャスメル王子?大丈夫ですか!?
黙ったままのキャスメルに声を掛けたのはポッドだった。
その声は怯えたような心配したような声をしていた。
ポッドから見えたのは、キャスメルが一点を見つめて眉間に皺寄せていた表情と、キャスメルの不快感を感じていた一部の者たちの困惑した表情が視界に入った。
一瞬にして、この空気を造り出した原因が自分の娘の言葉であることを理解した。
二組は同じような立場にあり、同じものを目的とすることを知っている。
結果が人気順ではないことはわかっているが、できれば国民には好かれた方がよいに決まっている。
娘の言葉は、この場にいる者たちよりもいない者たちを選んでいた。
ハルナたちは娘の扱いがうまく、この村に滞在している間はできる限り相手をしてくれていた。
サナを含めて、順番でチュリーや他の子どもたちの相手をしてくれていた。
だが、キャスメル王子の者たちは余裕がないのだろうか。
この村に来てそのような行動に出てくれるようなことはなかった。
……いや、本来はそんなことをしてもらえる人物ではない。
だが、してもらえないよりは、してもらえた方が好感度が違ってくることも確かだ。
そんなことを考えている状況ではないと、ポッドは母親にチュリーたちを別の場所に連れていくように目で指示をした。
母親もこの場にいることが辛かったのか、居心地の悪い空間から逃がしてくれたと判断しその指示に従った。
そこからおおよそ一分、部屋の中に無言の時間が経過する。
そして、この場にいたエルフはお茶を冷めてぬるくなったお茶を一口含んで口を開いた。
「キャスメル様……あなたはなぜ、王選に参加されているのですか?」
「――え?それは……」
キャスメルは当たり前の質問に対して、その答えを口にしようとしたがその先の言葉が繋がらない。
思い当たれば、これと言って王を目指す理由が見当たらない。
ウェンディアと一緒になりたいという思いはあったが、王にならなくてもそれは可能ではある。
しかし、王であればそれなりの理由も付けられ、その確率は高くなる。
他の者がこの考えに対してどう思おうが構わないが、いまそのことを言えるはずがない。
身の危険を冒してまで一緒についてきてくれているクリエやルーシーたちに対して、そのことを言えば軽蔑……いや、この王選から手を引くことになりそうな予感さえする。
それなりの理由を考えなければ、今この状況は乗り越えることはできない。
キャスメルは視界の中には入っていたが、ぼんやりとしていたエルフの顔を意識する。
その視線には、キャスメルの何かに気付いている感じが伺えた。
”もしかすると、何か魔法を使って心の中を読んだのかもしれない”と、キャスメルは相手が王子に対して失礼なことをしているのではと疑ってしまう。
それであっても、既に手遅れの状態だろう。
さらに言えば、”心の中を読む魔法”も勝手な思い込みかもしれない。
(ど……どうすればいい!?)
キャスメルの頭の中は、言い訳にならない言い訳やすぐにばれてしまう嘘を頭の中に浮かべては消し、浮かべては消していく。
どれもこれも、エルフの質問を満足させるものではなかった。
自分の頭の悪さを恨むと同時に、いっそ素直に話してしまった方が楽なのではという投げやりな気持ちが増殖し、キャスメルの次の行動を決定した。
「わたしは……」
「待ってください!!」
キャスメルの言葉を遮ったのは、隣にいたクリエだった。
「私は……無理に言う必要はないと思います。王子は私たちとは違い、いろんなものを背負っていらっしゃいます。それは私たちにはわからないものです……その想いを軽々しく口にするべきではないと思います。それよりも、私たち……この国で生きる国民に行動で示すべきです!……と思います」
クリエは、自分の思いを勢いで口にした。
”自分のような者が……”という気持ちはあったが、それでも間違ったことは言っていないと信じている。
その頑張りに応えるように、ルーシーもクリエの発言の内容に賛同する。
「私もクリエの意見に賛成です。エルフの代表の方よ、我々は信念をもって行動している。それを疑うような真似はやめていただきたい」
その言葉にナルメルは、頷いて自分の発言によって不快にさせてしまったことについて詫びた。
このタイミングでポッドは、ステイビルから聞いた話は全て伝えたことを告げ、何か聞きたいことがないか確認をする。
キャスメルたちから質問が挙がってこないことを確認し、この場は解散することになった。




