5-13 キャスメルの憂鬱3
「それで、これからどうなさいますか?キャスメル王子」
ルーシーの問いにキャスメルは腕を組んで目を閉じる。
今わかっていることは、大竜神のモイスがこの山にいたということ。
普通ならば、その情報に従ってすでに受けている火の竜の次の加護を受けに行くべきだろう。
(だが、何かが引っ掛かるような……一体なにが?)
キャスメルは、感じる違和感の正体を探ろうとさらに思考と記憶の深い場所に潜り込んでいく。
変に感じたことは話の内容ではない……ポッド、ナルメルやイナがキャスメルに嘘の情報を渡すことも考えにくい。
もしも意図的にそんなことをすれば、せっかく造っているこの町の努力もすべて無駄になることもある。
王選を虚の情報を用いることによって、バレてしまった際に罰をうけることになるだろうし、そこまでして嘘つく理由が見当たらない。
(あるとすればステイビルが……ん?いや、そういうことか!)
キャスメルは、その答えに気付いた。
そしてキャスメルは、たどり着いた答えを確認するためにポッドに尋ねてみる。
「今の話、ステイビル王子から……頼まれたのか?」
キャスメルからの質問に、ポッドは一瞬身体を硬直させた。
「そのお答えは”そうであり”……”そうではない”ですね」
キャスメルやアリルビートは、ポッドの理解し辛い物言いに顔をしかめ不機嫌さをアピールする。
だが、ポッドにはその威圧的ともとれる仕草に対して怯えることもなく、用意されていた次の言葉を口にする。
「我々も……キャスメル様がいらっしゃった際には、このようにお伝えするように……いえ、言われてはおりません」
「……はぁ!?何を言ってるんですか!?」
歯切れの悪い言葉に、思わず変な言葉が出てしまったのは堪え切れなくなったルーシーだった。
しかしポッドはその反応も知っていたと言わんばかりに、落ち着いた態度でその理由を説明する。
「王選に関しては、関係者からの情報提供などは受けてはいけないということをお聞きしております。そのためステイビル王子は、独り言と称して私たちの傍でお話しくださったのです」
ステイビルはポッドたちに、キャスメルが来たら今までのことを伝えて欲しいと思っていた。
だからまず、王選では関係者が神々がいる場所の情報を提供することは強く禁じられていることを話す。
だが、そこには抜け道があるという。
噂話や、関係のない者たちが見たことを聞いたことを話すだけならば、その罪に問われないということ。
そうでなければ、情報がまるでないところからは目的地にたどり着くことはできない。
実際にレモネードではエフェドーラ家がそういった役目を背負っていた。
全くゼロからの状況では、探し出すことは難しいという、たった一つのヒントであると考えた。
きっとそれは、モイスの配慮であると思い、モイスに聞いてみた。
答えははぐらかされたが、完全に否定しないところがそういう意図であったのだとモイスの性格上から推測した。
その考えを伝えた上え、ステイビルはポッドたちを傍に置いて今までのことを……キャスメルに伝える内容を話し始めた。
聞き手はハルナたちで、名目はモイスと会うまでの記録と称して。
これで誰も罪をかぶることなく、キャスメルも目的の場所に到達できるとステイビルは信じていた。
「ステイビル……そこまで」
キャスメルは、複雑な気持ちになっている。
こんな状況でも自分を思ってくれていることと、自分にそんな余裕があったのかということと、知らせなければ自分がたどり着けないと思われていることに。
ポッドは言われてはいなかったが、その案を持ち出したのは”ハルナ”だと告げる。
そのことを聞き、キャスメルの気持ちが波立った。
王選前に一人でモイスティアに向かい、運よくハルナたちと合流した。
一緒に行動する中で、ウェンディア似のハルナに気持ちが惹かれていた。
だが、その想いも叶うことはなかった。
それが、今の王選のメンバーに現れている。
自分の希望通りにいかない状況に、キャスメルは嫌気がさしていた。
その時、さらにキャスメルの気持ちを悪くすることが起きた。
ハルナの名前が聞こえたチュリ―が、ノイエルに話した。
「また、ハルナ姉ちゃんと遊びたいねー。ハルナ姉ちゃんは、すぐ遊んでくれたよね!」




