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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-146 チェリー家の屋敷で4








「うぅ……ん。あ、起きていらっしゃったのですか……ステイビル王子」



「あぁ、すぐに目が覚めてしまってな……起こしてしまったようだな……すまない」




メリルは目をつぶって顔を横に振り、再び目を開けてステイビルの眼差しを受ける。



「いいえ、王子が誤られるようなことはありません……それに、これだけでわたくしはもう幸せです……これ以上望むのは」




その言葉の先は、ステイビルに身体を抱きしめられて発することができなくなった。

メリルはステイビルの鼓動と体温を頬に感じながら、ひと時の幸せを心に刻み込んだ。



(このまま時間が止まれば……どんなに幸せだろう)



メリルの頭の中には、そんな思いが浮かぶ。

だが、いつまでもこの幸せに浸ることは許されない。


メリルはやさしくステイビルの身体に手を添え、自分の顔がステイビルの顔を確認できるまで距離を作った。




「王子……わたしはどのくらい眠っていたのでしょう」



「あぁ、そうだな。一度目の警備の鈴が通り過ぎる前に私は目が覚めたのだ……次の鈴が鳴るまで、丁度半分くらいの時間だろう」



今は、ちょうど真夜中の二時から三時にかけての時間帯だった。

朝、ステイビルの部屋に自分がいれば、いろいろと問題となることは容易に想像できる。


その言葉を聞き、メリルはベットから起き上がった。

そして脱いだ服を身に着け、乱れた髪を整える。

ステイビルはその後ろ姿に見とれてしまい、”恥ずかしいから見ないでほしい”とメリルから言われていた。



「長い間お時間を頂戴して、申し訳ございませんでした……ありがとうございました、王子」



「あ!メリル……」




お辞儀をして、退室しようとしていたメリルをステイビルは引き留める。

何の用かと顔を上げ、メリルはステイビルのことを見守る。



「なぁ……もう一つお願いが……あるんだが」



「……?なんでございましょうか」



メリルは首をかしげて、やさしくステイビルに問い質す。




「う……うむ。ほら……前……やってくれただろ?」



「前……でございますか?」


「う……む、そうだ……小さい頃……その……怖くて……眠れないとき……ほら、よくやってくれたじゃないか!」



「え?……あぁ!」



その言葉に思い当たることがあったのか、メリルはニコリと笑いベットの傍に近付く。

そして、ステイビルがいるベットのふちに腰を下ろし膝の上の服のしわを伸ばして二度その上を叩く。



「さぁ……おいでなさい……ビル坊」



その言葉にステイビルは顔を赤くしたが、一つ咳払いをしてメリルの膝枕に顔をうずめ腰に手を回す。

あの頃より二人は成長していたが、互いにこの感覚に懐かしさを思い出す。


メリルは、顔をうずめるステイビルの後ろ頭を撫でながら当時のことを思い出す。

双子でありながら先に産み出されたために兄と呼ばれたステイビルと、遅れて産まれ出たキャスメルの性格の違いを。



ステイビルはキャスメルを引っ張っていくために、兄という名にふさわしく振舞っていた。

キャスメルは、そのことを不快に思ってはおらずその兄を慕う、本当の年の離れた兄弟のようにも思えるほどだった。


だが、メリルは判っていた。

キャスメルが無理をして兄を演じていたことを……同じ齢の小さな二人に、王子という立場の他に兄と弟という立場で二人の人生の重みが変わってしまったことを。


本来の兄弟であれば、生きてきた年数の経験の差が二人の間を”兄”と”弟”を分けるはずの時間がこの二人にはない。

同じ立場だが、それでも弟よりも前にいなければならないステイビルのことをメリルは心配に思っていた。

ある時、ステイビルは失敗をしてしまう。

キャスメルと一緒に行動をする中で、判断を誤ってしまった。




王宮では、ちょっとした問題になる出来事だったが、命には幸い別状がないため口頭注意で終わった。

それも……ステイビルだけの。




その夜、メリルはパインに言われステイビルの様子を見てくるように言われた。

メリルはステイビルの部屋の扉をノックすると、いつもよりも応答までの時間が長く感じた。


そして部屋に入ると、ステイビルは背筋を伸ばしてテーブルの前に座りメリルを待っていた。

しかし、その眼は涙で潤み赤くなっていることをメリルは見逃さなかった。


メリルは、失礼と思いながらもステイビルたちが自分のことを姉と思っている気持ちを利用し、ステイビルに今の想いを吐き出させた。

そこには、聞けば辛い言葉が並べられていった。



メリルはステイビルを不憫に思い、その身体を抱きしめた。

それが不敬とはわかっていても、自分より小さな存在がこんなにまでも王国のために重圧を背負い頑張っている姿を見逃すことはできなかった。



メリルはステイビルを膝の上に引き寄せると、普通の怯える子供のように全て吐き出して泣いた。










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