4-142 モイスのスキル
「というわけでな。サヤという者にワシの能力を奪われてしまったのだ……すまない」
モイスは落ちこんだ声で、自身の身に起きたことを告げて詫びた。
モイスの話は、ヴェスティーユがユウタを連れ去ったあの時にユウタの中に隠れヴェスティーユたちの居場所を突き止めるためにいたということだった。
その前にモイスは、自分の持つ能力の一つの話をこの場にいる者たちに聞かせた。
モイスの持つ能力は、空間創造という能力だった。
それは、ある物体の存在を基準に、その中に仮想空間ともいえる今の世界とは別に存在できる空間を作り出せる力だった。
空間の中では、感覚、色、物体など、自分の持つ力や知識などに応じて様々な物質がその空間の中で想像できるという能力。
モイスが使えば、ある一つの石の中に別な世界を創り出すことができた。
空間の広さも配置する内容も、その空間を作り出した者の能力に比例していく。
そのためその能力を扱えたとしても、使い方やその者の力量が足りなければ空間を用意するだけで終わってしまうこともある。
ハルナたちがグラキース山で体験した洞窟も、モイスが能力を用いて用意した空間だった。
出入りできる対象の設定などもモイスが調整できるため、あの時ハルナたちを負ってきたレッサーデーモンはあの空間に入ることはできなかったという。
「だから、サヤは自分を空間に閉じ込め声を出すまではできたが、それ以上のことはできなかった……モイス様のように使いこなせてなかったのでしょうね」
「うむ……恐らくそうであろうな。だがその使い方を覚えていけば……厄介な能力を渡してしまったことには間違いないな」
モイスはいまだ姿を現さず声だけが聞こえている状態だが、サヤという者に奪われてしまった能力の一部の厄介さに王国の安全が脅かされることになる状況を招いてしまったことを深く悔やんでいるのが声から伝わってくる。
エレーナもステイビルも、そんなモイスを慰めようとした。
その行動は自分たちを守ろうとする行動であり、反対に大龍神の身体に傷をつけてしまったことに対して申し訳ないと告げた。
その言葉は、決して間違いではないとステイビルは判断した。
サヤ、ヴェスティーユ、ヴェスティーユや、あのダークエルフと対峙した場合、本当に勝てるかどうかの自信がなかった。
勝てたとしても王国にも多大な損害が出ていただろうと、容易に想像ができる。
そんな相手をモイスが単独で、情報収集……あわよくば討伐してくれようとしていたのだ。
『その行為に感謝こそすれ、責めることなど決してないと』ステイビルは国とこのメンバーをを代表してモイスに告げた。
「一つ思ったんですが……もし、その基準となっている物質が崩壊した時って、その空間はどうなるんですか?」
「……うむ、そこなのだ。その基準にしている物が消滅してしまった場合は、その空間とのつながりが断たれてしまいそこからは出られなくなる」
そのことを聞き、ステイビルはゾッとした。
今までの話を総合すると、サヤ使っていた能力の扉となる者はあの”紙”だったのだろうと判断する。
そんな中で、万が一あの紙が破られたり燃やされたりしていたとなれば……
ステイビルは、背中に鳥肌と冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
「逆に言えば、そうやって相手を葬り去ることもできる……ってことですよね?」
「むぅっ!?……た、確かにハルナの言う通りだが……そう簡単には……行かぬよ。多分最初のユウタという者の身体の一部に隠れた時は、サヤの感だと思われるが慣れてくれば、この能力を使っている場所などがわかるようになることも可能だからな」
「モイス様、それでも作戦と相手によっては使えなくはない方法かと……ハルナ、それについては今後どのような方法でどんな相手に通用するかなど考慮する必要があるな」
そう話しがひと段落付いたところで、そろそろ出発しないとクリミオたち合流する時間に間に合わなくなるとメイヤが告げる。
大きな問題と希望を持ち帰り、一同は再び馬車に乗り込みソイランドの方向へと馬車をすすめて行った。




