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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-141 一枚の紙に

****


ヴェスティーユはサヤの姿を見つけると、床の上に姿勢を正し正座した。

視線の先はサヤの足元で固定し、ふざけた口調も出さずに沈黙を保った。





「……ヴェスティーユ」



名を呼ばれたヴェスティーユは、身体を固めて母親からこれから自分の身に起こるだろう仕打ちに対して備えた。



「……よくやった」



「お母様!ごめんなさ……えっ!?」



ヴェスティーユは怒りを抑えてもらおうと、すぐに謝る用意をしていた。

だが、サヤの言葉は自分を責めるものではなく、褒めたものであることにヴェスティーユは驚いてしまった。

ヴェスティーユは、顔をあげサヤの姿を見る。

それは自分の者になるはずだった、生命力の塊を瘴気の球体を作り出し攻撃しようとしていた。

何故そんなことをするのかが理解できなかったが、ヴェスティーユはこの場の状況の変化を見て理解した。

サヤがその瘴気を近付けると、一体の小さな姿をした竜が姿を見せた。



「――!?」



何が起きたのかわからないヴェスティーユに、目が覚めるような声がかかる。




「ヴェスティーユ!この男を!」


「は、はい!」



ヴェスティーユはサヤの言葉を全て聞かないまでも理解し、こと果てたユウタの足首を掴み自分の背中の方へ引き寄せた。


それを見届けたサヤは、先ほど用意した三倍の大きさの球体を用意し、モイスが飛び立った方へ投げつけた。

モイスは壁にその身体を消そうとした瞬間、後ろから被弾してしまった。



「――!!!」



モイスの身体の半分を飲み込んだ球体は、壁に激突し瘴気は黒い霧となり消えていく。



ヴェスティーユは、母親が仕留めそこなったと思い何か慰めの言葉をかけようとした。

が、その行為をサヤの行動を見て止める。

自分には判らないが、何かを考えているもしくは行っている状態だと判断した。


以前、その行動を阻害したときはサヤの機嫌は最悪の状態になり、ヴァスティーユと一緒に長い間サヤの元を離れた。

でなければ、何をされるか……自分たちの存在が消されかねないという危機感から二人は逃避行動を起こした。


一年後にその場所に戻ってきたときには、当時隠れていた場所の山は姿を消していた。




「お?……おぉぅ!!……こ、これは!?」



「……お母様?」



サヤの口からは、いままで聞いたことのない声が聞こえた。

そのことに、ヴェスティーユは恐る恐る声を掛ける。



「ごらんよ……ヴェスティーユ……あのトカゲ、こんな力を持ってたようだよ」



「……?」



ヴェスティーユはサヤが何のことを言っているのか判らなかった。

だが、わからないという否定的な言葉をここで出す勇気はなく、ただただ軽く驚いた表情を見せてわかっている振りで乗り切ろうとする。


そんな態度をとることは、いつものことで分かり切っているサヤだが今回は機嫌を損ねない。

それ以上に、たったいま手にしたものに対する喜びが勝っていたためだった。




サヤは一枚紙を手に取り、ひらひらとゆすって見せる。

そして目をつぶり、ブツブツとヴェスティーユには聞こえない音量で何かをつぶやく。



「はぁ……なる……ここ……こうして……よっ!」



掛け声と共にサヤはその姿を消した、その様子はまるで手品のショーを見ているように。

サヤの持っていた紙は、支えを無くしひらひらと床に向かって落ちていく。



「お……お母様ぁっ!?」



ヴェスティーユは、床に落ちた紙を拾い手にしながら叫ぶ。

姿を消した原因が何なのか判らないが、本能的に最後に手にしていた物に何らかの理由があると判断し手に取っていた。



「ヴェスティーユ……ちょっとあんた、変な声出すんじゃないよ」



その声は、手にした紙から聞こえてくる。

ヴェスティーユは目の前で紙をゆらゆらとさせながら、ここに居るであろうサヤに話しかけた。



「お、お母様?ご、ご無事……で?」



その言葉には、嘘偽りない気持ちが込められていた。

母親を心配する気持ちと、声の出所が薄っぺらい紙の中であることに対する不信感が入り混じった感情。

その不安に答えるように、サヤはタネを明かす。



「あたしはね、あのトカゲの能力を奪えたみたいさ。……あいつ、自分の指定した物体を座標の基軸として別な空間を創造できる能力を持っていたんだね。だから、見つけることができなかったんだ」



「と……ということは、いまお母様は……この紙のなかに?」



ヴェスティーユの質問に対して、サヤは間違っていないと答える。

その答えを聞いた瞬間、ヴェスティーユには考えてはいけないことが頭を支配する。



(この紙……破ると……)



ヴェスティーユは最後まで考えることなく、頭を振ってその悪い考えを無理やり振りほどく。

それと同時に、サヤがヴェスティーユの前に再び姿を見せる。



「これは……使えるねぇ。ハルナを誘き出して……この世界に閉じ込めて……」



その言葉をきっかけにサヤは、再び自分の思考の世界に入る。

ヴェスティーユやユウタからも、その時間を引き裂くことはできずにただ見守っていた。






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