4-111 メイヤとメリル
「動かないで……そのまま武器を手離して、両手を上げてください」
メイヤは指示に従い手を挙げたままこの先の展開を待っていると、静かな落ち着いた声は次の指示を出してくる。
「……手を頭の後ろで組んでください」
メイヤはさらに両肘を曲げて、頭の後ろで手を組んで見せる。
その状態のまま手が冷たいもので固定され、動かすことを封じられた。
封じられたものは氷ではあるが、簡単に壊すことができないだろう。
いざとなれば手首を”千切ったり”して拘束を解くこともする術もあるが、今はそんなことをする必要はなかった。
「それでは、その状態でゆっくりとこちらに振り向いてください……変な気は起こさないようにお願いします、メイヤ様」
メイヤが振り向いた先には、メリルの掌がこちらに向けて最大級の警戒を向けている。
その前には複数の先のとがった鋭利な氷の粒が、メイヤを狙って発射の指示を待っている。
メリルのその表情は牢からその身を解放した時や、馬車の中でハルナと一緒にガラヌコアに向かってきた時の穏やかな表情とは異なり、敵に対してみせる精霊使いの顔をしていた。
メイヤはメリルの姿を見ても、何も言葉を発さない。
どうしてこんなことになっているのか……メイヤは頭の中でいくつかの案を立て、片隅に置いておく。
それらは一つ一つ状況の中で、可能性の高いものを選び出していかなければならない。
いま自分は、メリルから何らかの”良くはない”印象を持たれていいることは判っている。
でなければ、今のこの状態はない。
この行動を引き起こしているものがどこから来ているものか、まずはそれを聞き出すことをすることから始めようと考えた。
それに付随して、メイヤはまず考えてみる。
”このメリルは味方か敵か”
敵だった場合、誰の下についているのか?
べラルド……これはメリルが長い期間、牢に捕らえられていたことから考えても可能性はない。
裏の組織の者たち……これも可能性は低い。そうであれば討伐の対象は自分だけでなくハルナも対象になるはず。この建物の中にある死体との関連性もつながらない。
その他の第三者……可能性はなくはないが、それであれば後ろを向いているときに攻撃を仕掛けた方がまだ自分を倒せる可能性は高い。
こちらの方が、まだ可能性がある。
味方の場合は、何か理由があってこういう行動をとっている可能性がある。
メイヤは、この可能性を軸に言葉を投げかけてみる。
「メリル様……ハルナ様はご無事ですか?」
「……それは、あなたに話すことではありません。あなたは、私を助けたフリをして信頼を得ようとしていたのではないですか?」
”助けたフリ”と言った時の、今までにないメリルの感情に違和感を覚える。
その奥にあるのは、裏切られたという思いがあるのだろうと判断した。
併せて、この短い時間の間に誰かがメリルにその情報を流したのではないかという推測も生まれる。
(ハルナ様が……?何のために?それともまた別な人物がいる?さっきの人影の人物……)
とにかく、情報を引き出すきっかけを得たメイヤは、この小さな糸を途中で切れない様にゆっくりと手繰るように話を続ける。
「助けたフリ?……それはどういう意味でしょうか?」
「それはあなたが私たちを!?」
「……メリル様」
メリルを制した声に、メイヤはやはりと納得をする。
この状況の中で一番警戒していた人物の声がメリルの言葉を止めた。
その声は、メリルの後ろの入り口の向こうから聞こえ姿を現した。
隣には探していたハルナも一緒で、二人の精霊使いの無事が確認できたことに安堵する。
「ここまで来たのなら、この状況を説明していただかないとね……ソフィーネ」




