4-99 砂漠の施設13
「……”精霊使い”はなぁ、高く売れるのさ!!」
男は今まで怯えていたようには思えないほど、喜びの表情でメリルを狙う理由を告げる。
ハルナはその事実にゾッとする。
もしも自分が囚われたとしたら……そして誰かに売られて弄ばれたりしたら。ハルナの身体に悪寒が走り、ブルッと震えた。
思い出せば、チュリーやノイエルもこの者たちに狙われていたこともある。ナルメルもランジェに拘束されていた。
(そんな組織がまともなはずがない……)
「……なるほどね。それで、この町にいたシーモたちの権利とメリル様を連れ出すのが目的だったのね。でも、どうやってこの町と繋がったのかしら?べラルドにしてみれば、粉の製造はこの町の者しか知らなかったはず。あなた達が入ってくる必要性は感じないんだけど?」
「そ、それは……はっ!?」
男は言葉を返そうとしたことを失敗したと感じた、本来ならここは”何も知らない”で通すべきだった。
だが、相手から持ち出された推測の言葉はこの作戦において組織内でも言い争った案件で、ついそのことを口に出してしまったのだ。
それによって、相手も何かを感じ取りそれを聞き出そうと行動を開始する。
ソフィーネは男から抜き出したナイフを一本手にし、手の上でクルクルと放り上げ弄んでいる。
その様子を見て男は、先ほどのまでの痛みを思い出して耳を庇う。
「ふーん……”それは”なに?」
ソフィーネは反対側の頬にナイフの腹を当て、ペチペチと音を立てながら叩く。
「ひぃっ!?」
怯えてはいるがその先の言葉は口にしない、ナイフの恐怖以上の何かが男の口を塞いでいるのだろう。
恐怖と重圧で膨張しきった状態の感情の器を、破裂させるにはほんの少しの痛みがあればいいだけだ。
ソフィーネは、きれいな方の頬に当てたナイフに少し角度をつけ、ゆっくりと手前に引く。
「ひぃぁっ!?」
男の頬には、赤い線が引かれにじみ出てくる血が頬を流れ落ちていく。
だが、ソフィーネはそのままナイフは離さず、男の頬につけたままだ。
「変な声出さないで。薄い皮を切っただけよ。それよりもまだ、話す気にはならない?次は跡が残るほど切るわよ?そっちの方が箔がついてよさそうならそうしてあげるけど?」
ソフィーネは、男にとっては嬉しくない二択を迫る。
最終的に男は、今迫っている自分の身の危機を回避することを選択した。
「わ……わかった!話す!だからこれ以上痛くしないでくれ!!」
その言葉を聞き、ソフィーネはナイフを男の顔から離し、そして男に約束を守らせた。
「この話は……ソイランドに住む奴から持ち掛けられたんだ」
「持ち掛けられた……どんな話?」
男の言う話は次のような内容だったという。
べラルドは、ソイランドでさらなる地位を狙っている。そのためには、町の廃墟に隠れる裏の集団とも手を組んでそこに付け入るという内容だった。
その出来上がった集団で、粉の売買に関するとりまとめを行っていけば、その集団も安泰であるというものだった。
べラルドはメリルを手に入れる手段を画策していたところで、その手助けも出来上がった集団でおこなうという約束も取り付けていた。
その話は男が持ち掛けた通りに進んで行き、粉の利権の獲得、王選での精霊使い選出を失敗させメリルの身を抑えることにも成功したという。
「何か……未来を予知しているみたいな感じですね」
それがハルナの素直な気持ちだった。
ソフィーネは念のため、男にその男が言っていた計画に変更、失敗や問題がないか問いただした。
しかし、その男が立てた計画は何の問題もなく進んで行ったという。
「そういう能力の持ち主……ですかね?精霊使いともブンデルさんやサナさんとも違うみたい」
「その男の名前を知ってるの?」
ソフィーネは男に対して、抵抗することが無駄とわかるような静かな声で告げる。
「確か男の名は……ユ」
「……誰だ!そこで何をしている!!」
男の話の途中は中断され、この部屋に新しい人物が加わる。
建物を内を警戒している警備兵だった。
警備兵は緊急時の中で、話し声が聞こえて怪しく思い接触してきた。
「――!!!」
正座をしていた男は、ソフィーネたちの意識が乱入してきた警備兵に向いた一瞬をついて、目の前に置いてあった自決用のナイフを手に取り後方へ逃げた。
「――あ!」
そして男は警備兵の合間を縫って、部屋の外に逃げていった。




