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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-81 指令本部での攻防10







「なぁ……聞かせてくれないか?お前がどうしてこんなことをするようになったのかを」



グラムからのその言葉に、クリミオは驚いた。

今までは勝負に負ければ、何かを奪われたりこの身を拘束されたりとこちらに良くない条件を突き付けてきたりそういう行為をされてきた。

この男は、そう言ったことをクリミオに突き付けることなく自らの過去の話を聞くという。



クリミオは、アルベルト達に抑えられている仲間の顔を見る。

その顔は、”全てクリミオの判断に任せる”という顔つきだった。


その返答にクリミオは、一つため息のような息を吐きグラムと同じように胡坐をかいて床に座る。




「……いいのか?面白くない話だぞ?」



「あぁ……構わんさ」



アルベルトとエレーナも既に、戦闘をする体勢ではなく他の者たちと一緒にこの話に耳を傾けていた。






クリミオが生きてきた人生が決して良いものではなかったことは、今の自身の生き方を見てもわかっている。


自分だけが特別最悪な環境のなかにいたか?そう問われれば、”そうではない”とも答えるだろう。

自分と同じ境遇の者は多かった……親もいない、頼れるものもいない。

自分はただ、そういった者たちで集められた集団の中で、生きるための一員でしかなかった。

そこでは食事や寝床は与えられたが、ある年齢になると”働いた”成果によって与えられるものに差がでてくるようになる。


窃盗、詐欺、薬物、密売……クリミオたちは、集団の中で生きる術を身につけていく。

それらは、決して一人で行わなくてもいい。集団で行えば成功率は高くなるが、分け前はその分少なくなる。

そこも任させれる仕事の内容に応じて、報酬が分配されていった。




厳しい日が続く。

幼い頃のクリミオたちは、体力もなく子供の持つ知識などたかが知れている。

そんな者たちはひもじい思いをしながら、身体を寄せ合って眠りについていた。



その中で、ある女――自分よりほんの数歳上――が時々、食べ物を与えてくれていた。

その女は、自分の稼ぎが良かった日には、クリミオたちに自分の稼ぎの一部を与えてくれるのだった。


その女性の名は、『ベル』と言いった。

ベルも小さい頃から、この集団の中で生きてきた。

クリミオ達はベルのことを姉のように慕い、ベルも自分の兄弟のように扱ってくれた。



だがある日、これが最後だとベルが食べ物を持ってくる。

ベルは、ある人物についていくことが決まったそうだ。


クリミオはそこで初めて、自分の身体を売る者がこの中にいることを知った。それは女だけではなく男であってもだ。

その相手は、異性だけだはなく同性に指名されることもある。

一時的な相手をすることが殆どだが、稀に金持ちなどに気に入られその身を商品として売ることもあった。



クリミオは運が良かったのか、その対象には選ばれてはこなかった。

ベルは、専属としてある男に連れて行かれることになっていた。

そのお金の一部をクリミオたちに分け与えてくれた。


買われていったもの達が幸せに暮らしているかなんてわからない……その後は消息が全く分からないからだ。

だが、ほとんど玩具として買われていくためその結末は……言うまでもない。



だが、誰もそれを責めることはできない。

その契約はここの集団では、かなり高額な取引となり、稼げない者達が食べていくためには仕方がなかった。

クリミオは、せめてベルの将来が幸せなものになるようにと祈った。



クリミオは成長し、上手く生きていけるようになった。

だが、武術はからっきしで、その辺りは共に過ごしてきた仲間に任せていた。

クリミオは他の者が持たない、嗅覚があった。

勘が良く、クリミオと組めば間違いないと言われる程になった。

その嗅覚を武器に、仲間たちと暗い日の当たらない世界を生き延びた。



そんなある日、クリミオはベルの話を耳にした。

ソイランドの警備兵の司令官でアブダルという名の男が、ベルを購入した者と知った。


その時から、クリミオはベルとの再会を考えることになる。

どこで自分たちの命が終わってしまうか分からない、そういう類の人間であろうことは承知している。

せめて、自分たちを守ってくれた女性の存在は忘れないようにと、クリミオはベルの消息を探すことを目的とするようになった。










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