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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-77 指令本部での攻防6









クリミオが親指で弾いた硬貨は回転しながら高い音を響き渡らせ、放物線の頂点に達し下降を始める。


観衆はその硬貨の軌道に目を奪われているが、対峙する二人はお互いから視線は外さない。

耳だけを済まし、落下するコインが床に跳ね返る音だけを待つ。


いよいよその時は来る……レイピアを構える男の視界の端にクルクルと回り落下する硬貨が通り過ぎるのが見えた。

男は剣の柄を握る手に力を込める。

しかし、不思議なのは相手はまるで構えをとっていなかった。



(舐めてんのか?……クソが!ヒィヒィ言わせてやる!!)



落下に関係のない回転を見せる硬貨は床に吸い込まれるように落ちていき、目的の場所まであとわずかに迫っていた。






――ドン!!






硬貨が床に着く直前に、誰かがハンマーを投げ床に落とした。

その音により、硬貨が床に着く音がかき消されてしまう。

男はその音に隠れ、硬貨が床に着く前に相手に向かって飛び出した。


ほんの一秒にも満たない差ではあるが、普通の人から見ればその差が勝敗に影響する範囲ではないと考えるだろう。

しかし、この男の速さであればそのわずかな差で剣先が獲物に届いてしまう。

男のレイピアの先は、兜の額部分に向かって真っすぐ伸びてくる。



(もらった!……その兜を弾き飛ばして顔を拝ませてもらう!!)



きっとハンマーの音は誰か、向こうの仲間がやったことだろう。

しかし、その音に怯えることはない。こういうことがあるのは予測済みだった

むしろルールを守るなら、まだ立ち直る見込みがある。平気で破る者でなければ、いま目の前に対峙してはいない。


それに絶対と言っていいほど、相手の剣先は自分に届くことはない。




――ギン!




男の剣は相手の二歩分先の距離で突進が止められた、そこには透明な板が全身を守っていた。




「……!?」



男は何度か、確認するように透明の板に向かってレイピアを突き刺す。

だが、硬い物に弾かれる音がするだけで、その先には剣が通ることはなかった。



「な……なんだこりゃ!?」



繰り返し突き刺す剣先から、阻んでいる物の欠片が額に飛んできた。

一瞬、冷たいものを感じたが、それは別の物質に変化した。


「こ……これは?まさか・・・!?」



額に着いた水滴を拭うと、その正体に気付いた。



「精霊使い……おまえ、水の精霊使いか!!」




「おまえってあなたねぇ……ちゃんと名前がある……いや、やっぱりいいわ。アンタたちに知ってもらう必要は全く感じないからね」



そう言って、掌を男の方に向けると壁はその姿を消す。



「もういいでしょ?こんなこと早く終わらせたいのよ……」



「……ぐぁ!?」




掌からはマシンガンのような無数の氷の礫が、男の身体に痛みを重ねていく。

腕を顔の前で組んでガードをするが、それ以外の場所には氷の弾丸によってダメージを受けている。



「……?」



その攻撃が突然止まる、今まで攻撃を受けたところはジンジンとした重い痛みが続いているが損傷して動かないというわけではなさそうだ。



ゆっくりと重ねた腕を解き、相手の顔を見る。

掌はまだ、こちらに向けられていたが攻撃は止まっていた。




「……どう?そろそろ降参したくなってきたんじゃない?私はアンタたちと違って、虐めたりするのは好きじゃないからこの辺りで降参したら?」




男は分かっていた……その言葉が挑発の意味を持つことを、そして自分の実力では目の前にいる精霊使いに及ばないことも。

しかし、男はその言葉に応じなければならないと感じていた。

ここで引いてしまってはこの女に勝ったとしても、今まで自分が築き上げてきた地位が危ぶまれることになると判断した。

クリミオや自分の地位を狙う者たちの目が及んでいるこの決闘で、引いてしまうことになれば今までの立場や信頼が失われることになる。

命とこれから先の自分の人生を天秤にかけるが、男はこの集団の中でこれからも生きていく以外の方法を知らない。

そう決断すると、男は手にしたレイピアを握り直し身体に力を込めて床を蹴り向かっていく。



が、その行動が適うことはできなかった。

男の足は氷によって固められ、自由に動くことを許されなかった。

そのまま男は、前に倒れ込み掴んでいたレイピアを手放した。

エレーナは落ちたレイピアを蹴り、手の届かない位置まで移動させる。



「これで分かったでしょ?あなたは私には敵わないの……もうこの勝負もお終いね」




男は唇を噛み締め、今の状況をなんとかしようと思考を巡らす。

どんな汚い手を使ったとしても、この状況をひっくり返す手立てを……



だが、自分にはどうにもできない程の力の差を見せつけられ、心は既に折れていた。

戦うことに関しては、そんなに頭が良くないとは思っていなかった。

まともな組織ではないが、クリミオの傍に仕えることが出来るくらいまで剣の実力と知恵と経験はあるつもりでいた。

それ以上の未知の力を見せつけられた今、これ以上自分の身体を傷つけないでこの話を終わらせる方法は思いつかなかった。

男は誰かに行って欲しかった……『もう、お前の負けだ』と。



しかし、男の耳に聞こえた声はその希望に背く言葉だった。




「な……何をしている!!立て!!……お前ら、全員であいつを殺せ!!」











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