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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-70 ブンデルとサナ8








相手の命を奪うため力を込めて握ったダガーを、切っ先に全ての意識を集約してサナの背中に振り下ろした。






――ドッ!!






メイの中の時間は、通常の三倍にまで引き伸ばされたような感覚になる。

ゆっくりと自分を庇ってくれていたドワーフの背中に、ダガーが振り下ろされるその様子がスローモーションで映し出されていた。



(……あ)



メイはこれからサナの身に起こることを意識した途端、その身体が勝手に動き始めた。

メイは包み込むように、サナの上に覆いかぶさった。





背中に何か重たいものがぶつけられたような衝撃を感じる。

その数秒後に、痛みという言葉を通り越して焼けるようにも似た感覚がメイの脳に襲い掛かる。

メイの喉の奥から暖かいドロドロとしたものが込み上げ、それを我慢できずに吐き出した。

それは真っ黒い自分の血だった。


焼けるような苦しみの中で自分の身体の中に意識を向けると、突き刺された刃物は体の中で止まっており庇ったサナは無事だと感じた。



そこから背中に突き刺さったものが、何度か引っ張られる感覚を覚える。相手が自分の身体からダガーを引き抜こうとしていた様だった。

しかし、その刃物は自分の身体の骨の一部に引っ掛かったことと、痛みを堪えるため身体に力が入っているため抜けにくくなっているようだった。

何度も自分の身体が刺さった刃物が取っ手となり、引き上げられる感覚が続く。

そのために、刺された場所には何とも言えない焼けるような痛みが走る。


口の中に溜まる血も止まることなく溢れ、意識が徐々に薄れてくる。



(痛い……苦しい……でも……もうすぐ……楽に……)




意識が途切れる直前、自分の下にいた者が外に抜け出していく感覚があった。

すでにもう目は見えにくくなっており、耳から入る音も聞こえ辛くなってきた。

一度だけ、自分の名を呼ぶ声がした……それが意識を失う前にメイの聞いた最後の音だった。








「め……メイさんッッッ!?」




サナは、驚きで腹部の痛みが完全に消えた。

相手は自分の刺した武器が引き抜けずに必死になっている。


サナは落としたメイスを両手で拾い、強く握りしめて大きく後ろに引いた。



「メイさんから離れなさい!!!!」




メイは、メイスを相手の胸部の脇へと水平に打ち付けた。

メイスの先の塊には遠心力とスピードが乗り、メイを襲ったメイドの肋骨に打ち付けられた。

メイドは衣服の下に、チェストプレートを装着していた感触がある。

だがその鉄の板も、粘土のようにへし曲げられ肺を庇う骨の鎧が無残にも砕け散る感触がメイスの取っ手から伝わってきた。




メイドは、防御することもなく全ての力を弱い部分に受けてしまった。

プレート越しでも肋骨が砕け散った感触がわかる。

横にくの字に曲がり、メイドはサナの全力の攻撃によって吹き飛ばされてしまった。


そして地面を二回程転がり、うつぶせになって痛みで気を失った。




サナは自分を襲いかかってきた者が、行動不能な状態になったことを確認しメイスを投げ捨てメイの身体を起こす。



「メイさん!!しっかりしてください!!メイさん!!!」




サナはメイの身体を抱きかかえたが、手にはメイの血がベットリとついていた。その流れる血の多さにメイの命の危機感を感じる。

ブンデルはまだ意識が回復しておらず、助けてもらうことは出来そうにない。




パインの屋敷に入ってくるときに、サナはブンデルから三つのことを言われていた。


一つは、パインと交渉中は何も話さないこと。

一つは、自分の身を第一に守ること。

一つは、ヒールの魔法はブンデルの指示で行うこと。



ヒールの件は、ブランビートもソフィーネも気に掛けていた。

どんな傷も癒してくれる、素晴らしい魔法だ。

一日三回までとはいえ、生き物の身体の傷を修復することが可能ということは誰もが欲しがる能力だという。


治癒の魔法の存在を知られては、サナが襲われてしまう可能性が高い。

そのためヒールは気軽に使わないように、と言われていたのだ。





だが、サナは目の前の息の浅い瀕死の女性を見過ごすことはできない。

彼女は、自分のことを守ってこのような結果になっているのだから。

サナは決心をして行動に移る……これ以上迷っていては、救える命も救うことが出来なくなってしまうと判断した。



「……ごめんなさい!」



サナはそう言って、メイの背中に突き刺さった血で滑るダガーの取っ手を握る。

それを上下左右に動かしながら、引き抜けなくなっている状況の原因を探る。



「……あ」



あるところで、ダガーは今までの抵抗が嘘のように抜けた。

それと同時に意識のないメイの身体が、無意識に反応して身体を一度だけ震わせた。



その傷口に掌をかざし、サナは魔法の詠唱を始める。


サナとメイの間には魔法の術式が浮かび上がり、傷口が光り出す。

そしてサナは術式の中に魔力を流し込み魔法の名を唱えた。




『……ヒール!』












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