4-64 ブンデルとサナ2
「パイン様がお会い下さるとのことです……どうぞお入りください」
ブンデルは、お辞儀をして招き入れるメイドの横をお礼の言葉を告げて通り過ぎる。
その先には、もう一人のメイドが二人を待っていた。
そして、そのままブンデルたちを屋敷の中へと誘導していく。
「ご案内します……どうぞこちらへ」
その言葉に従い、ブンデルとサナはメイドの後を付いていった。
武器などを回収されると思っていたが、装備品についてはそのままだった。
こちらからわざわざ言う必要もないと、余計なことを言わないままメイドの後ろを追っていく。
まっすぐエントランスに向かい、大きな扉ではなくその脇に付いている勝手口のような扉が開かれる。
中は薄明るく、暖色系の明かりが灯されている。
夜の暗闇から明りのある場所に入ってきたが、このくらいの光度であれば目に辛く感じることなくはっきりと見ることができる。
ステイビルたちから聞いていた、会食の会場は屋敷の奥にある。
だがメイドは、その途中にある扉を開きブンデルたちを部屋の中に入るように促した。
「どうぞこちらでお待ちくださいませ……主はもうじき参ります」
そう告げてメイドは一度部屋の外へと退室した。
再びそのメイドが入ってくると、ワゴンが用意されていた。
そこには軽い食事と、ポットに淹れられた熱い紅茶が用意されていた。
これはもう少し準備に時間がかかるということだろうと判断した。
注がれる紅茶と差し出された食事への感謝の言葉をブンデルから聞くと、メイドは部屋から退出していった。
これはきっと、気にせずに休んで欲しいという心遣いもあるようだ。
だが、ブンデルとサナは”万が一”に備え、それらには手を付けないでいた。
特に空腹や口渇の状態ではない……
そのまま時間が過ぎ、扉の外から数人の足音がこの部屋に近付いてくる。
――コンコン
扉を叩く音が聞こえ開かれた。
まず最初に入ってきたのは、先ほどから対応してくれているメイドだった。
その後ろにパインの姿が見える。
そしてもう一人、門の前で出会ったメイドがパインの後ろに付いて部屋に入ってくる。
パインは二人が並んで座るソファーの前に立ち、テーブルの上にある手付かずで残された軽食に目がいった。
「何かお口に合わないものがございましたでしょうか……お気遣いが足りず申し訳ございませんでした」
そういって、二人に頭を下げて詫びた。
「いえ、そういうわけではないのですが。今、空腹は満たされておりますので……こちらこそ、食料を無駄にさせてしまい申し訳ありません」
ブンデルが代表をして、パインに座ったままであるが詫びた。
「おぉ、王子の使いのお方から、そんなお言葉は不要でございます!」
そういいつつ、パインは二人の前の一人用のソファーにゆっくりと腰かけた。
メイドは入り口の隣に一人、そしてパインの後ろで少し離れたところに一人立っていた。
パインはサナが手に持っている花束に目が行き、メイドに花瓶を持たせた。
ブンデルはその行為に礼を言って、花瓶の中に花を入れさせてもらうようサナに指示をする。
サナは用意された花瓶の中に花を入れて、それをテーブルの上に置いた。
「……それでは、今回こちらにいらっしゃったご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?ステイビル王子からの伝言があるとお聞きしておりますが」
「そうでした……先ずステイビルさんからの伝言です……”了承した”ということでした」
パインはその返答に、顔色を変えずブンデルの顔を見つめている。
その視線を感じつつも、さらにブンデルは言葉を続ける。
「そして何点かご質問させていただきたいと思うのですが……その前に」
……コト
ブンデルはステイビルから預かっている短剣をテーブルの上に置いた。
「この短剣はステイビル王子からお預かりしたもので、王家の者しか持つことができない代物です……パインさん」
パインは急に名前で呼ばれ、身を一瞬硬くさせた。
そして周囲の空気は緊張し、ブンデルの言葉の続きを待つ。
「この王家の紋章に誓って、これから質問をすることに嘘偽りのないようにお答えいただきたい」
「えぇ……誓って嘘をつくようなことは申し……」
パインの言葉の途中で、ブンデルは手を挙げて制した。
「あぁ、大丈夫です。ドワーフの中には嘘を見抜く魔法を使える者もいますから。嘘を言ったかどうかはすぐにわかりますので」




