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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-43 精霊の欠伸







「よし、まずはグラム殿にどうすれば安全に会えるか……まずはそこからだな」




「えっと……普通に会いに行ったりしてはダメなんですか?」




ハルナはエレーナに頼まれてクリアを渡し、小さな体重を支えて疲れた腕をさすりながらステイビルの傍に近寄る。

母親のようなハルナの姿に、ステイビルは一瞬拍動が跳ねる。


次の瞬間落ち着きを取り戻し、ハルナの質問に答えた。




「い、いま、我々のことを助けてくれそうなのは、グラム殿以外に考えられない。その方が、命を狙われている危険の中で、我らが不用心に接触を図り危険にさらしてしまっては元も子もないだろう?」



「よいしょ……っと。それもそうですね。でも、どうすればいいのかしら……」




ハルナはステイビルの横に腰かけ、ソフィーネが渡してくれた水を受け取り複数回に分け喉の奥に流し込んだ。

そして、飲み込むために停めていた息をゆっくりと吐き出した。





「はー……どこかに行ってくれないかしらね……そしたら連れ出すのが楽になるのに」




言い終わったハルナの顔を、ステイビルが見つめている。

ハルナは、息を吐き出した時に涎でも垂らしたのではないかと、顔を真っ赤にして必死に口周りを袖で拭う。




「ハルナ……それだ。どこかに行ってもらえばいいんだ!」



「――え?」



確かにどこかに行ってくれるなら、それに越したことはない。

だが、”移動してくれるのか”とそれを”どうすれば”が一番重要なのだが、ステイビルは既にそこに到達していた。





「みんな、ちょっと集まってくれ。相談したいことがある……」




ステイビルは声を抑えて、瞬時に描いた作戦を頭の中から口に出して伝えていった。












「……」




ローブを深くかぶり、蒸し暑い昼間でもその中の顔を伺い知ることができない。

太陽が昇ってから更なる時間が経ち、今では建物の影はローブの男を守ってくれることはない。

額からこの町では貴重な水分が粒となって流れ落ち、汚れた布が容赦なく奪い吸い取っていく。




(……くそっ)



思わずローブの下の男の口から、吐き捨てるような言葉が漏れる。

ここにきて前任者と交代し、まだたったの一週間しか過ぎていない。

だが、何の変化もない時間を過ごすうちに時間の感覚は失われ、いつしか”本当”にここの住人になってしまったような気がしていた。




(――この忌々しい場所の住人に!)




この廃墟から抜け出すために悪事に手を染め、やっと手に入れた町の暮らし。

自分がこの地域の出身だというだけで、この仕事を命令した奴を呪った。



「ホントにこんなところに……誰かいるのかよ」



中に入ることは許されず、外から監視をするだけ……それだけでよいという組織からの命令だった。

”――誰かが隠れているなら、攻め込んでしまえばいい”

これがこの男が常に思っていることだった、今までも命令されたターゲットは問題なく始末してきた。



(こんな監視に何の意味があるのか……こんなの俺たちのやり方じゃねぇっ!?)



今回の命令とやり方について男は、日が経つごとに不満と苛立たしさが募るばかりだった。

次の交代は一週間後、それまで辛抱すればこんな呪われた場所から離れることができる。

男はそう自分に言い聞かせて、我慢を続けた。



この作戦を理解していない者にとって、その不満を爆発させてしまうには欲望のきっかけを与えれば、簡単に崩壊する。






「……ん?」




男は、頭の上の布越しに何かが落ちてくるのを感じる。

地面は、黒い粒が徐々に増えていく。

上を向くと鼻の頭に何かが落ちてきて、それを手で拭うとその正体が判明した。



「これは……雨か?」



雨雲はないが晴れた日に雨が降る現象が、一生のうち何度かこの地域でも見られた。

この地域の人々はその現象を”精霊の欠伸”と呼んでいた。


水の大精霊が大きな欠伸をして、流した涙が雨になって降ってくると言われている。

誰が言い始めたのかは判らないが、雨が滅多に降らないこの地域ではこの雨も精霊の恵みとして、そう呼んで感謝していた。



男は思わずフードを取り、顔全体で落ちてくる水を受け止めた。

しっかりと降り注ぐ雨は、シャワーのように降り注ぎ男の乾いた心と皮膚を潤していく。



「ふぃー……生き返る……な」





男は任務を忘れて、ローブのフードを外した状態でずっと空から降り注ぐ雨粒に顔を当てる。

皮膚が潤い、汚れを洗い流そうとした時……雨は急に止んだ。


周りを見渡すと、その建物の向こう側ではまだ雨が降り続いていた。

そこでは口を開けて上を向き、雨水を口の中に貯め込もうとする者や、今までこの男が行っていたように身体の皮膚に潤いを与えて汚れを落とそうとする者たちの姿がある。

更には、その場所を目指してどこからか人が集まってきていた。




「……くそっ!俺もまだ満足してねーんだよ!?どけよ、どけよ!!!」





男は精霊の欠伸を追いかけて、建物の向こうへ集まる人をかき分けながら移動した。





建物の上で隠れたヴィーネが、周囲に水を降らせている。

そのままヴィーネは隠れながら、エレーナの指示の通り人だかりをこの場所から離すように移動させていった。




「……よし、いまだ。チェイル、行くぞ!」


「はい!」



ステイビルの掛け声に応じて、チェイルとステイビルは建物の中に入っていった。










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