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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-39 クリアの理由





「え?……ちょっ……な……何なんですか?」





ソフィーネに立ちはだかれた少女は、その威圧的な態度に今まで経験したことのない緊張感を覚える。





「あ。ちゃんとお礼を言ってなかったからですね!……起こしてくださって、どうもありがとうございました……そ、それでは……あ!?」




少女は顔を伏せたままソフィーネを避けて通り過ぎようとしたが、その方向へ移動され進行方向を再度塞がれてしまった。


きちんと挨拶もしたのに通してくれない女の人に対し、少女の小さな心臓の鼓動は速くなる。

そんな中、助けてくれた後ろにいる女の人が近寄ってくる。





「ソフィーネさん……どうしたんですか?その子……何かあったんですか?」





ハルナから声を掛けられたソフィーネは、視線を見下ろした少女から外さずにハルナに返した。





「ハルナさん……懐に入れてらっしゃいました小銭入れ……まだ入っておりますか?」



「小銭入れですか?それならここに……」






ハルナは”そんなこと当たり前”という態度で、ローブの隙間から胸元に手を入れて内ポケットの中に入れた小銭入れを探る……だが、そこには探していたものは入っていなかった。





「え_?あれ……?ない!?」




ハルナは身体のあちこちを触りながら確かめてみるが、薄い布の上からは硬貨を入れた袋の感触は感じられなかった。





「……でしょうね。さて、あなた。その袖の中に入っている”モノ”を返していただけるかしら?」




ソフィーネのその言葉に驚き、少女の身体は一度だけビクッっと震えた。

今まで誰にもバレたことない……それがたった一度だけで見破られた驚きが次第に少女の中で恐怖に変わっていく。




「あ……あ……」




ソフィーネの視線が絡みつき身体を思うように動かせない少女は、下肢の力が抜け地面に座り込む。

接地面からは、独特の臭いと共に身体から流れ出る尿が地面を濡らしていく。



ソフィーネは押さえつけるような気迫を纏いながら、少女にゆっくりと近づいて行く。

その様子を見たハルナが少女に近寄ろうとするが、ステイビルがそれを止めた。


その次の瞬間――





「……クリア!」






目の前の少女よりも年齢の高い声が、乾いた風の流れるこの場所に響いた。

声の主はソフィーネの後ろ側から姿を見せ、一直線にクリアと呼ばれた少女に向かって走っていった。




「お、お前……もしかして、また!?」




その言葉に少女の表情は崩れ、今にも泣き出しそうだった。

知っている人物が来たことによる安心感……それとも何かの約束を破ったことがバレてしまったことの罪悪感か。

そんなに大きくもない少女の感情の堤防は、一気に崩壊し悲痛な泣き声が響き渡った。

その泣き声の中に、迎えに来てくれた者へ謝罪の言葉が聞き取り辛い中に混ざって聞こえてくる。




「チェイルさん……」




ハルナが深く被った布を外し、この場所で探していた者の名を呼ぶ。

ステイビルもハルナに続き、フードの布を外し現状を確認した。



クリアの感情が落ち着いたころ、チェイルは何があったのかをクリアの口から聞いた。

そしてクリアから渡された小さな硬貨の入った袋を受け取り、それをハルナに渡して返した。




「すみません……ハルナさん。この子にはきつく言い聞かせておきますので……どうかお許しいただけませんでしょうか?」



「私は……別に……ソフィーネさん?」






ハルナは困った顔でソフィーネを見るが、この処罰の決定権はハルナにあるという表情でハルナを見つめる。

助けを求めたステイビルも同様に、この件についてはハルナに決定権を与えた。






クリアは知っている……

盗みを働き失敗して捕まったものがどういう結末を迎えているか、何度もこの目で見てきた。


見てきたからこそ、クリアは”私は失敗しない”とその気持ちだけで生きてきた。

今までは運が良かったのか、それとも自分の力があったのか……誰にも見つかることがなく”仕事”をこなしていた。



しかしいま、自分が見られる立場となっていた。

せめてもの救いは、この地域で一番信頼し本当の兄のように慕っているチェイルが自分の隣に居てくれることだった。

チェイルはいつも、自分のことを守ってくれていた――お腹を空かした時も、喉がカラカラに枯れていた時も、病に倒れてこの世の最後と感じた時でさえチェイルは自分の傍にいつもいてくれた。



だが、今回は距離を感じる存在に思えた。

その理由は、自分が”約束”を破ってしまったせいだと……少女は判っていた。

今までにない、信頼していた者からの冷たい態度が小さな少女の身体を恐怖で震えさせていた。






ハルナはチェイルの後ろに隠れ、自分への処罰を待つクリアに近付いて行く。

チェイルは何も言わず、ただクリアが握る背中の震えを感じ取っている。


ハルナは、うつむくクリアと同じ目線の高さに顔を合わせるために綺麗な服も地面に付けて膝を折る。




「ねぇ、クリアちゃん、教えてくれるかな……どうしてこんなことをしたの?」





ハルナからの問いかけに、クリアは言葉に詰まる。

目の前には、もう二度と人の物を盗らないと約束したチェイルがいるから。


クリアは待てど、自分にこれ以上助け舟が来ないことを理解し重い口を開いた。





「わ、私の…私の大切なお金を盗られちゃったから……!!!」







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