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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-27 扇子の向こう




屋敷の奥に入ると、そこには大きな中庭が広がっていた。

緑と砂が左右に分かれており、その中心には噴水が溢れる庭園が広がる。


ハルナはその景色に違和感を感じつつも、おかしなところが何なのかその理由に辿り着けなかった。


その思考を遮る声、屋敷を案内するステイビルを挟んだ先のパインが歩みを止めて列をなすステイビルたちに振り向いて告げる。





「どうぞ、お入りください」





パインは左手を扉の方へ差し出す、それと同時に左右にいたメイドが一枚ずつの扉を開いた。


その先には、これから開始される宴のテーブルが三つ用意されている。


そのテーブルは白い布で覆われており、ナイフとフォークが並ぶ。

中心には、ろうそくの明かりと、食事の邪魔をしない程度の香りのある落ち着いた花が置かれていた。




舞台のカーテンの奥には楽団が控えており、ゆったりとした音楽が流れている。

音量も会話を邪魔しない程度に調整されていた。




「……こんな贅沢を」





ハルナの背後にいるエレーナから、怒りが滲んだ小さな声が聞こえてきた。


前に居るステイビルの背中にも同様の感情が伺えるが、ステイビルは一つ息を吐いて用意された部屋の中へ進んで行った。




「……あ」




少しステイビルと距離が開き、ハルナはその後を急いで追いかけた。





二人掛けのテーブルは、一つはステイビル、一つはエレーナとハルナ、一つはアルベルトとソフィーネにそれぞれ誘導された。最後にパインがステイビルの前の席に着いた。


全員が席に着いたことが確認されると、奥の扉が開き料理を乗せたワゴンが運ばれてくる。

冷たく冷えた果実酒が、ハルナたちの前に置かれた綺麗なグラスの中に注がれていく。




――キィ……ン




パインが、ステイビルの前に置かれたままのグラスに自分のグラスを打ち付けて音を鳴らす。





「……さぁ、食事を始めましょうか?」






その言葉と同時に、緩やかな音楽を奏でていた楽団の音量が一段階上がった。


食事が次々に運ばれて、食べきれないうちに承諾を得て皿が交換されていく。

最初はパインに反抗するように、料理に手を付けないでいたハルナもその抵抗に何の意味もないことを感じ始めた。

ステイビルやソフィーネを見ると、普通に出されたものを口に運んでいた。

それに、この残された食事の行く末を考えると無駄にはできないという想いが強くなりハルナも次第に料理を口に運ぶようにした。


その辺りから、食事も終盤に入りお酒の種類も重いものに変わっていく。

音楽の種類が変われば、カーテンの袖から四人の小さな踊り子が現れて踊りを披露する。


その踊りも一糸乱れぬ踊りで、”とてもよく練習している”という感想以上の精度の踊りを見せてくれていた。

ハルナは、この状況でなければ楽しめたのかもしれないと思いつつ、踊りの披露を終えた子供たちに笑顔で拍手を送った。

その笑顔も子供たちが踊りを見せてくれた子供たちよりも上手に笑えていないだろうな……と思いながらも姿を見せなくなるまで手を叩き続けた。



そして流れる音楽も最初のゆったりしたものに戻り、テーブルの上には食事が片付けられてデザートが置かれていた。

時間にして、二時間近い時間が経過していた。





「……いかがでしたか?ステイビル様、ご満足いただけましたでしょうか」



「あぁ、なかなか……だったよ。これだけのもてなしをしてくれたことに感謝しよう、パイン」



パインは細い目で再び笑顔を浮かべ、満足気にステイビルの言葉に頷いていた。




「……それで、パインは一体何が望みなんだ?」



突然の交渉相手の物分かりの良さに、パインは細い目を見開きワザと驚いて見せた。

そして目線をハルナとソフィーネの席にに移動させ、警戒する仕草をする。




「……大丈夫だ、この者たちは私の信頼のおける者たちだ。何の心配もいらない」



「ですが……」






パインは、困惑した仕草を見せハルナたちとステイビルの顔を交互に見る。



(どうせろくでもないことなんでしょ?……何を勿体ぶってんのかしら)




エレーナが不機嫌そうにハルナに小さな声で囁き、手にしていたグラスの中身を全て飲み干した。


そのことが聞こえたのかは知らないが、ステイビルは誰にも聞かれないようにとパインに気を使った。





「……わかった、私に耳打ちすることを許そう」




その言葉に感謝し、パインは席を立ちステイビルの隣に移動する。

パインは衣装のスカートを少し上にまくり上げ両膝を付き座っているステイビルの耳の高さに顔を合わせた。

手にしていた扇子を広げ、ステイビルの耳と自分の口を隠した。




「……」




僅か五秒も満たない時間で、パインは要望は伝え終わった。

近くで流れる音楽で、その声はハルナたちには届くことはなかった。

ソフィーネを警戒してか口元を隠していた為、その言葉を読み取ることもできなかった。




そして、ステイビルはわずかに笑みを浮かべ、こう返答した。






「ふむ、わかった……しかし、少し考えさせてもらいたい……それと」



「それと……何でございましょう?」



「もしも私が、この話を断った場合は……どうする?」






パインは少しだけ驚いた表情を見せて、また元の作り笑顔に戻した。






「どうにもなりません、ご安心を……ただ、ステイビル王子はお断りにならないと信じておりますわ」





そう告げて、扇子を広げて口元を隠すように笑った。







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