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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第四章  【ソイランド】

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4-16 土の町『ソイランド』



「ここが……」

「……ソイランド!」

「ハルナはわかるが、エレーナも初めてなのか?」

「そうですよ、ソイランドに来る用事は特になかったですからね」


ブンデルとサナも、人の町に入るのはラヴィーネ、モイスティアに続いて三度目で、慣れが見えてきた。

関所も王選の旅であることを告げると、人員の名簿を記帳するだけで中に通してくれた。

その時警備兵はエルフとドワーフがいることに一瞬反応を見せたが、ステイビルの視線に気付いてそれ以上のことは何も言われなかった。

ブンデルは少しだけ不快になったが、その後のハルナとエレーナが自分に必死に話しかけてくれる姿に不快感を顔に出してしまったことを反省した。

落ち込んだブンデルの腕に手を回し、自分に引き寄せて無言で慰めようとするサナの心遣いにブンデルは隠すことなく甘える。

ハルナは、そんなサナと目を合わせてお互い落ち着いたところで微笑み合った。

落ち着いた波動を感じ、フウカも機嫌よくハルナの周りを飛び回っていた。

最近落ち着いてアルベルトとの時間を作れないエレーナが、ブンデルとサナの仲の良い姿から目を逸らしてソイランドの町中を窓から眺める。


「ねぇ……あれは?」


エレーナの視界に入ってきたのは、一人の青年が数人の大人に追いかけられているところだった。


「ソフィーネ!」


ステイビルの声に反応したソフィーネは、馬車をその青年に向かって直角にターンさせた。


「――むぐぅっ!!!」

「――ぅわぁっ!ちょっとぉ!!」


ハルナはエレーナの背中に、エレーナはアルベルトの胸の中に遠心力で飛ばされた。

だが、馬車はその速度を増していく。

ソフィーネは手綱から手を離し、スリングショットを手にして狙いを定める。


――ビュッ


遠くで振り上げられた手に命中し、その手から棒が離れた。

猛スピードで近付いてくる馬車に気付き、追われていた青年と追いかけていた数人の大人が立ち止まってソフィーネの姿を見る。

その隙を狙い、ソフィーネは青年との間に馬車を割り込ませた。


「おい!女ァ!何をしてくれたんだ!!」

「ごめんなさいね、馬車の車輪が”石を弾いた”みたいね」

「――このぉ!?」


その反対側では、アルベルトは馬車の扉を開け青年に向かって手を伸ばす。

青年は伸ばされた手を掴み、その身体を引き上げられ馬車に乗り込んだ。


「……ごめんなさいね、先を急いでいるから」


そういうとソフィーネは、手にした手綱で馬を叩きつけた。


――ヒヒーン!!!


二頭の馬は同時に、驚いて前足を跳ね上げ後ろ足で立つ。


「「うわぁぁっ!!」」


馬車は少し後ろに反り、乗っているハルナたちは今度は後ろ側に押し付けられた。

外では、男たちが馬が暴走したと勘違いして馬車から距離を置いた。

それを見たソフィーネは、上手く手綱をコントロールし馬を落ち着かせて馬車を出した。


「あ!……ま、待てぇー!!!」


男の一人が馬車の後を走って追いかけてくるが、いくら人を乗せていたとしても馬の駆ける速さは追いつけるものではなかった。

ここは、町の外れ。

畑があったような場所が広がっているが、そこには何の作物もない。

何かの農耕用の動物がいたような大きな小屋があり、その中に馬車を隠した。


「さっきはごめんね……」


ソフィーネは二頭の馬を驚かせてしまったことに謝って、馬もその気持ちが通じたのかソフィーネに顔を擦り付ける。

その裏では、馬車から降りたハルナたちは落ち着きを取り戻した青年に事情を聞こうとしていた。


「助けて下さ……いえ!どうして私を助けたのですか!?」


お礼を言われると思っていたが、途中から真逆の反応を青年は見せた。


「……君はどうして追われていたんだ?何かあの男たちと問題でも?」


馬車の中で隣に座っていたアルベルトが、青年からの言葉を無視して言葉を掛けた。

青年は口をへの字にしたまま、アルベルトに対し返事もせずじっとその目を見つめていた。


「ちょっと、あなたね!助けてもらっておいて、その態度はないんじゃないの!?」


アルベルトの問いかけを無視して、睨み続ける青年に対して真っ先に我慢の限界に達したのはエレーナだった。

ハルナは一瞬にしてエレーナと青年の間に入り、エレーナをなだめた。


「エレーナ落ち着いて!……ねぇどうしたの……ってすごい傷じゃない!?大丈夫なの!?」


青年の腕は、赤い血が服から滲んでいるのが見える。

ハルナはステイビルに向かって目で合図をすると、ステイビルはそれに頷いてサナを見る。


「……ちょっと、腕を見せて」


サナに声を掛けられた青年は、何ともないと腕を背中側に隠した。


「素直に言うことを聞け、ニンゲン」


そういうとブンデルは、中指で傷があると思われる場所を指で弾いた。


「――っっっっっっぁ!?」


青年は声にならない悲鳴で、弾かれた傷口の痛みを堪える。

そして、ブンデルが強引に腕をまくり傷口を露出させた。

その際、傷口から出る血液が凝固して布と付着していたがそれもはがれて再び血が滲みだす。


「……”ヒール”!」


サナがかけた魔法の名を唱えると男の損傷部は光を発しみるみるうちに塞がれ、血液で汚れてはいるが傷は何もない状態になった。


「!……あれ?痛みが消えた」


目を閉じて激痛を堪えていたため、男は何が起きたのかわかっていなかった。

先ほどまで襲っていた激痛が消失し、目を開けるとその原因が消えていた。

手で動かないように抑えていたが、抵抗がなくなった男の腕をブンデルは離す。

男は自由になった腕を反対の手でさすりながら、血がついたその下にあった傷が無くなっていることを自分でも確かめた。

サナは、信じられないという表情を浮かべる青年の横を通り過ぎてブンデルの横に立った。

ハルナのうなじがモゾっとした感触を覚え、その直後耳元に声が届いた。


『ハルナよ……この者、魔物の気配がしておる』




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