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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-16 怪しい気配



「「おぉ!!」」


従者達がその様子をうらやましそうに見つめる。

貴族たちの憧れ――精霊使い。

それにより、王族に近い存在となれる可能性がある希少な地位。

いくらお金を積んでも、決して手に入らないもの。

貴族たちの欲求を満たすことのできないもの。

何度、あの光を手に入れたいと思ったことか……

そう、あの淡く光る……

(……え?)

(……人……型!?)

(なぜだ……人型……!)

(ありえん……どこの馬の骨ともわからんものが……!?)


急に室内がざわつき始め、さまざまな声が聞こえる。


「……なんだか、騒がしいところだね」


突然、精霊が話し始めた。


「そうね、こんなことで驚くとは……ね」


ルーシーが、精霊に対して応える。

後ろにいるソルベティは、後ろに手を組んだまま立っている。


「え?お話ししていいの?」


我慢できずに口にしてしまったのはフウカだった。


「な、なんと!あの人型精霊も、会話できるのか!?」


この場が荒れてき始めて、ヤレヤレといった感じを見せるハイレイン。

しかし、いつまでもまとまりのない場を放置しておくわけにもいかない。


「――静まれ!」


その一言で、場の空気は凍りつく。

ハイレインは、最初に発言した従者をみて注意する。


「精霊使い達よ、ありがとう。――これで、間違いなくお前たちが精霊と契約していることが確認できた。今後は準備を整え、王の謁見が行われるまで自由にしていて構わない」


そういって、ハイレインはまた自分の席に戻っていく。

椅子に腰掛け机の上で手を組み、妖しい片目で四人を見つめる。


「これで以上なのだが……何か質問があるか?」


その言葉に、ルーシーが手を挙げる。

そのままハイレインの許可を得て、発言する。


「王選は精霊使いが二組で組むと聞いていおります。この四名の中から組まれると思って良いのですか?」


周囲から(何を当たり前な…)といった声が聞こえるが、ルーシーは気にしない。

言った言わないということを避けるために、面倒なことでも確認しなければならないと思っていた。

特に貴族との契約など、その地位を利用して簡単に裏切られることが多い。

ルーシーはそういうことを、いろいろと見てきたのだ。

そうすることにより、ダメージはゼロにはならないが軽減することが出来るのだ。


「うむ、そうだな。その認識で間違いはない」


ハイレインは、そのルーシーからの意図を感じ丁寧に返答した。


「では、他にないか?……なければ、この場は解散とする」


そういって、ハイレインは椅子から立ち上がり側近を連れて退室した。

エレーナ達も順に席を立ち、自室に戻っていく。


しばらくして、エレーナがハルナの部屋までやってきた。


「フー……やっぱり、新しい人と会う時は緊張するわね」

「私なんか、何が何だか分からないわよ……何ていうの、しきたりみたいなものとか、これでいいのかとか」

「その辺は大丈夫でしたよ?ハルナ様、私から見ていても問題ございませんでした」


そういってくれたのはソフィーネだった。


「有難うございます、ソフィーネさん」

「では、落ち着くお茶でもご用意いたしましょうか?」

「賛成!!」

「私も緊張続きで、口の中がカラカラよ……」


メイヤの提案に、エレーナとハルナは喜んで応じた。


――コン……コン


そこに、ノック音が部屋に響く。

その音を聞き、近くにいたハルナが出ようとするが、ソフィーネがそれを手で制し、代わりにドアの向かって歩いて行く。


――カチャ


ソフィーネはドアを開けてその姿を確認する。


「こちらは、ハルナ様の部屋でよろしかったでしょうか?」


その声の主は、先ほど聞いた声だった。


「改めてご挨拶に参りました、ルーシー・セイラムです。只今ハルナ様はいらっしゃいますか?」

「どうぞ、中へ」


ソフィーネはルーシーを中に招いた。

その後ろからは、もう一人付いてきた。


「ハルナ様、お客様です」

「先程は……ルーシー・セイラムです。あなた方のことは、この”ソルベティ”からお話しをお伺いしておりました」


後ろから、ソルベティが顔をみせハルナとエレーナの二人にお辞儀をした。


「ソルベティさん!!」

「先程は、失礼しました。あのような場所ですので、気軽にお話しすることが出来ませんでした……お許しください」

「ちょっ……ちょっと、どうしたの?今まで通り、普通に話していいのよ!?」

「そ、そうよ。一緒に訓練した仲でしょ?」


その言葉に反応したのは、ルーシーだった。


「エレーナ様、ハルナ様。それはいけません。我々は、王選に選ばれた者……その位に恥じないような人物でなければなりません。そのためにはハッキリと区別をつけなければなりません」


「え……そこまで」


言いかけたハルナを制したのは、メイヤだった。


「ハルナ様……人にはそれぞれに基準がございます。それは、それぞれが生きてきた中で、培ってきた術なのです。こちらの都合だけで変えることも、変えさせることもできないのです」

「流石です……」


ルーシーは、メイヤの言葉に感謝する。

ここまで、相手の背景を読み取ったうえで発言してくれる者は今まで自分の周りにはいない。

ハルナの付き添い人は、そこまで見通せる人物である。

そしてその付き添いの対象となる人物も、そのことを素直に受け止めていることから、相当の人物であることを今までの経験がそう告げている。


「ソルベティから聞いていた以上の方々のようですね……」


メイヤのおかげで、勝手にハルナ達の評価が上がっていく。


「そ……それで、今回はどのようなご用件でしょうか?」


エレーナが、本題に戻す。


「今回お邪魔した件は、こちらの従者方の件なのです」

「従者……の方ですか?」


オリーブが聞き直した。


「はい、そうです。今回の王選で、何か企んでいると情報が入ってきたのです。ご存じかもしれませんが、こちらの従者の方々は貴族出身の方です。貴族の大勢は、自分の地位を上げることばかり考えています。ここを任されているハイレイン様をも利用しようと考えているもの多いのです」

ソフィーネは、各人の前に紅茶の入ったカップを置き出した。

ルーシーはその行為に感謝し、頭を下げて話を続ける。


「私の友人がここの従者として働いております。情報を収集してくれたおかげで不穏分子の存在も分かってきました。これは私が王選の話を頂いた時に伝手を使ってセイラム家が調べたのです」

「自分の町から王選の代表として送った際に問題が起きないか……ですか?」


紅茶を入れながら、ソフィーネが確認する。


「恥ずかしいですが、そうです。セイラム家が優位になるようにという意味もあるかと思います」


王都の中の不穏分子をつかみ、揺さぶる狙いもあったのだろう。


「ですが、できれば正々堂々と今回の王選を競いたいと思っています……ですので、この情報を共有しました。本当は誰に話そうか迷ったのですが、ソルベティから是非とのことで」


ハルナはエレーナの顔を見る。

エレーナはアルベルトやオリーブの顔をみる。

が、二人はお任せしますといった態度だった。


「……わかりました。それでは現在お持ちの情報の詳細をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


エレーナはみんなの気持ちを代表して、ルーシーに応えた。




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