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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-278 東の王国82



エンテリアの発言に、この部屋は一瞬にして凍りついた。

エイミ以外は、エンテリアが何を言っているのか分からなかった……わかりたくなかったのかもしれない。

セイラはブランビートの横顔を見ると、安心した笑顔のまま固まってしまっている。

近頃では見なくなった、国を興した当初に見られた頭の中の処理が追いついていない時の表情だった。

しかもそれは、投げ出したくなるような難しい案件の時によく見られた。

その沈黙を破るように、エイミも続いた。


「……私もエンテリアに付いて行くことにしたわ」


薄々そんな気がしていたセイラは驚きはしないが、念のためにエイミを引き留めた。

その結果、当然ながら拒否で終わる。

時が止まったままのブランビートを見つめるエンテリアの視線を感じ、セイラはブランビートの肩にそっと手を置く。

ブランビートの先に見えたマリアリスもエンテリアの視線を気付かせるために手を伸ばそうとしていたが、セイラの行動によって引き留めていた。

合図を受けたブランビートは、目の中に意思が甦った。

そして、エンテリアから送られている視線の力強さにその想いを悟った。

それと同時に、ブランビートの中に不安の波が押し寄せ、その表情が更に暗くなっていく。

決して王として、他の者には見せることのできない表情だった。

ブランビートは知っていた――もう引き留めても無駄であることを。

エンテリアは、その表情から今までに見たことのないブランビートの姿を見た。

そこで思い出したのは、エイミと話し合った中で気付かせてくれたこと。


”いくら双子でも、それぞれは別の人間”ということ。


お互いが離れた十年の間で、環境の変化の違いがそれぞれが持っていた本来の自分自身が表に出てきていた。

そのことにブランビート自身は気付いていないようで、小さい頃に見た自分を追ってきていた姿とは全く違っていた。

エンテリアは、言葉が出てくる気配のないブランビートの半開きの口を見て、くすりと笑い言葉をかけた。


「どうした、ブランビート。何か言いたそうだな……」


エンテリアから発言のタイミングを与えられたブランビートは、頭の中で止めどなく現れる炭酸の泡のように浮かんだ様々な思いを口にした。

そして、最後に”この国を治めるには自分よりもエンテリアの方がふさわしい”と告げた。

いつもブランビートの傍にいてそのことを聞いていたセイラとマリアリスには、その発言に対する驚きの感情は無い。

ブランビートはエンテリアの反応を、その目を見つめて待っていた。


「そうか……ブランビートの気持ちは分かった」

「で、では……エンテリアがこの国の王に……!?」


前のめりになり、詰め寄ろうとしたブランビートをエンテリアは手を挙げて制した。


「待ってくれ、ブランビート。この国は、お前……いや、お前たちが創り上げたものだ。それを俺が今更引き継げるはずがないだろ?それに……」

「……それに?なんだ?どうしたというのだ!?」


この流れではエンテリアが引き受けてくれなくなると感じ、ブランビートは焦りながら途切れた言葉の先を求めた。


「落ち着け、ブランビート。いつものお前らしくない……それに、他の者の意見はどうなんだ?マリアリス、セイラさん……あなた達も、私が王を引き継いだ方が良いと思われているのか?」


エンテリアは、ブランビートの隣にいる二人の女性に目で意見を求めた。


「私は……ブランビートが適任だと思っております」


始めに応えたのは、セイラだった。

その声に、”先に言われた”とやや微笑みながらマリアリスはセイラと目を合わせる。


「私も、セイラ様と同じ考えです」


近くで協力していた二人の女性が、自分を裏切るような発言をしたことにブランビートは驚く。


「セイラ……この話を何度もしたとき、何も言わなかったじゃないか!……マリアリスだって!!」

「よせ、ブランビート!落ち着くんだ……」


エンテリアがブランビートを落ち着かせた後、エイミが言葉を続ける。


「ブランビートさん……それって、”言わなかった”んじゃなくて、”言えなかった”んじゃないの?私たちも旅の中でいろんな危険な目にも合ったけど、あなた達も大変な思いをして建国をしたんじゃないの?」


エイミが優しい目でブランビートを見つめ、ブランビートはその瞳に吸い寄せられていく。


「今までの話を聞いていると、初めて会った時とは印象が違うけど……それでもここまでやってこれたのはブランビート……あなたの実力じゃないの?あなたはエンテリアのためにこの国を創っていくと言っていたけど、それ以外の人たちはブランビート……あなたを”王”と慕って付いてきている人たちじゃないかしらね?」


エイミの言葉に、セイラは数度頷いた。


「だとすれば、ここでエンテリアに王が変わったとしたら混乱が起きることは間違いないわね。それは、民はブランビート……あなたが王だからこの国に集まってきているのよ。その民たちは裏切られた気持ちにならないかしら……”自分たちはこんな王に仕えてきたのか”ってね」


その言葉を聞き、ブランビートの顔から逆上した赤みが引いて行くのが見える。

どうやら、エイミの言葉が理解されたようだった。


「……エイミの言う通りだ、ブランビート。この国は俺の国ではない、お前たちが創り上げた国なんだ」


ブランビートの目には、今にも零れ落ちそうなくらいの涙が溜まっていた。




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