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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-270 東の王国74



「……私も魔物の件で、協力します。ですから、一つお願いがあるのですが」


その発言に、この場にいた全ての者の視線がエイミに注がれる。


『願い事……と?それは、一体どんなものだ?』


モイスは確認すべく、エイミにその内容を問いかけた。

エイミは唾を一度飲み込み、大きな存在と取引を持ち掛けるための覚悟を決めた。

こんな力も知識もない一人の人間が、神のような存在に交渉をすることは危険なはずだと判っている。

だが、やって失敗して後悔するよりやらずに後悔する方が、エイミとセイラの性格からして耐えられなかった。

こんな時にエイミの頭の中にウリエルのことが頭に浮かび、指にはめている指輪に上手くいくように願った。


「……モイス様は偉大な大竜神様だと聞いております。そのお力で、スミカさんを助けることはできないのでしょうか?もし……その命が助かるのであれば……私は、モイス様の仰っていたことの力になるようにこの身を捧げます!!」

「――エイミ!あんた、なにを言ってるの!?」


その願いを聞いたセイラは、エイミの肩を掴みその言葉を取り消してもらおうとした。

実は、セイラも同じようなことを考えていたので、その役目は自分であると言おうとしていた。

そんなやり取りが繰り広げられる前に、モイスがエイミの質問に対して返答をした。


『ふむ……スミカという者を助けたいんじゃな?ちょっと待っておれ、確か近くには”ウェイラブ”がおるのだな?』


そのモイスの問いに、エフェドーラに視線が集まった。

エフェドーラは、少しびっくりしていたが”ウンウン”と何度か頷き、スミカの傍にウェイラブがいたことを合図する。

モイスはエフェドーラが一言も言葉を発していないにも関わらず、その行為を感じ取っていた。


『了解した。少しの間待つがいい……』


その間、僅か十数秒――この場に再びモイスの声が響く。


『……うむ、あの状態なら何とかなるであろう』


その返答に、マリアリスたちの表情は明るくなる。

が、続けてモイスは見てきたことを続けた。


『だが、かなり生命力が低下している状態だ。スミカを蝕んでいる原因を取り除くことは可能だが、お前たちの尺度での残りの時間はどのくらいあるかはわからん……』


その言葉に、表情が一変して曇り始める。

そしてこの場にいるそれぞれがお互いの顔を順に見合わせ、誰かが話してくれるのを待った。

そして、これを提案したエイミが口を開く。


「わかりました、それでお願いします」

「エイミさん……」

「そんな顔をしないでください、マリーさん。元々建国について協力するつもりでしたし、その中で魔物の対策を考えていけばいいんでしょ?……あ、もちろん私一人じゃ無理ですよ!?だから、皆さんが協力してもらえたら嬉しいです!」


エイミの顔は未知への決断の不安と、自分の行いによってスミカの命が助かるという喜びが入り混じる涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

セイラはその心中を察し、もう一人の自分を引き寄せて抱き締めた。


『エイミ……お主の気持ちはわかった。このまま待つがいい』


モイスはそう告げると、再びこの部屋に静寂が満ちていく。


『……これでよい。安心するがいい、スミカの問題となっていた原因は取り除いた。これで今のような状態から解放されるであろう』

「え?もう!?」


エフェドーラが驚いたのも当然だった。わずか数秒しか経過していなかったのだから。

先程の様子を調べていた時間よりも短い時間しかかかっていなかったのだから。

それに今までスミカの傍にいて苦しんでいた姿や、今の薬草師に出会うまでの時間と労力が無駄に思えるくらいの短い時間だった。


マリアリスは念のため、母親の身に何が起きていたのかを聞いた。

スミカの肺の中に、黒い瘴気が溜まっていた状態だった。

最初は少量ではあったが、少しずつ浸食をしていき肺の三分の一の機能を侵されていた。

モイスは、血管内に散らばったものも浄化の光を注ぎ、全身の瘴気を消したと言っていた。


「ありがとうございました、モイス様」

『……よい。お前たちも、これからの時代に必要な者たちだ。ワシはお主たちに加護を与えることはできん……お主たちであれば、このぐらいのことならば問題ない。だがな、生き物には”寿命”という限りあるものがある。それに逆らわせることなどワシにもできぬのだ。それとこういうことは誰にでも行えるわけではないのでな、そのことは心に留めておけ』

「はい、わかりました」

『よし……では、また近いうちに改めてな』

「モイス様、ありがとうございました!」


エイミがお礼を告げると、モイスの気配も満足そうに消えていく。

溢れた光は収まり、そこにはまた元の水晶の球に戻っていった。

エンテリアたちは、今までにない経験によって浅くなっていた息を緩めた。

そして、次に行わなければならないことが頭に浮かび、適任者と思われる人物にお願いをした。


「……マリアリスさん。エフェドーラさんと一緒に無事の確認をお願いしてもいいですか?」

「それは……”ご命令”で?」

「……えぇ、そうです。村長命令です」


その言葉を発したエンテリアも隣にいたブランビートも”ヤレヤレ”といった表情で笑っていた。


「了解しました。マリアリス、命令に従い行動を開始します」


マリアリスはエフェドーラを連れて、部屋を出ようとしたその時。


「――え?」


マリアリスは力強くエイミを引き寄せ抱き締め、スミカを助けてくれた感謝の気持ちを行動で伝えた。

そしてエイミの身体を解放し、何も言わずにエフェドーラを連れて馬車の小屋に向かっていった。




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