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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-265 東の王国69



その日の夜、エンテリアたちは村に戻ってきた。

結構急いで戻ってきたため、馬はこれ以上は危険な状態まで来ていたが、何事もなく無事に戻ることができた。

出発の直前、エフェドーラに呼び止められた言葉がエンテリアたちの頭の中で繰り返し流れていた。


『スミカ様からの伝言です……”身体のことはウェイラブ様には黙っていてほしい”とのことです』


エンテリアたちは、このことを馬車の中で何度も話し合った。

きっとウェイラブは、久々にスミカの現状を知りたがるだろう。

村長に対して嘘を言うべきか……

母親との約束を守るべきか……

エフェドーラはスミカに頼まれて、何度かウェイラブと面会している。

その時にもこのことを黙っておくように言われて、ずっと胸の中に留めておいていたという。

スミカのために尽くしてくれたそんなエフェドーラの苦労を、勝手に裏切っていいはずがない。

結局その答えは、村に着いても出ることはなかった。


翌朝、一同はウェイラブの部屋に呼ばれて集まった。

結論が出ないまま、この場に来てしまったことに対し不安な気持ちで押しつぶされそうな三人は、誰かが言い出したこの場の流れに沿って進めていくと決めた。

当然エイミとセイラにも、話を合わせてもらうようにお願いをした。

そして、ウェイラブが一番最後に部屋の中に入ってくる。


「遅くなってすまない、探し物をしていたのでな。それで……スミカの様子はどうだ?息災だったか?」


三人は”早速来た”と思い、その質問に対し返答する。


「……はい、お元気そうでした。滞在中は、とても良くしていただきました」


エンテリアは、とっさにそう答えた。

その答えに満足したウェイラブは、”そうかそうか”と満足そうに頷いていた。


(もう、引き返せないな……)


五人は問題ないという方向で、話を合わせていくことに決めた。

そして、ウェイラブは一緒に部屋に持って入ってきた木の箱を机の上に置いた。

三人はそれが何であるかは、ウェイラブが語り始めるまで待つことにした。


「お前たち、”あの”剣と盾は持ってきたか?」

「はい、ここに」


ウェイラブの言葉に、エンテリアとブランビートはそれぞれ持ってきていた剣と盾を目の前に掲げてみせた。

それは、エイミとセイラの村でトライアと戦った時に使ったものだった。


「うむ……その剣と盾の話はお前たちには話してあったな?」


その言葉に反応を見せたのは、ステイビルの方だった。


「はい……これはこの村を作られた初代が大竜神から賜った道具であると伺っております」

「……その通りだ。今まで、魔を切る道具として代々伝わってきたが、お前たちがその力があることを見事に示して見せてくれたな」


大竜神の力を持つ道具として伝わってきていたが、その力を見ることができた者は初代以外には、エンテリアたちが初めてとなる。

そのことを確認した後、ウェイラブは先ほど机の上に取り出した木箱を前に押し出した。


「……これを受け取るがいい」


そう言われて、エンテリアはその木箱を両手で受け取った。

そしてウェイラブから木箱の蓋を開けるように指示され、エンテリアはそれに従った。

その中を覗き込むと、木箱の中には表面に青色の幕がかかった透明な球状の水晶が入っていた。


「……これは?」

「これも、代々我が村長の家系に伝わる大竜神様から賜ったもの……らしい」

「らしい……ですか?」


なんともはっきりとしない言葉に、今度はマリアリスがウェイラブの言葉に反応して見せた。

そんなマリアリスの言葉に、ウェイラブは顎をさすりながら剃り残した髭を人差し指で感触を確かめる。


「そうだ……”らしい”といったのは、私自身がそれを確かめたことがないからなのだ。剣と盾については、ノービスの村での戦いについて確認することができた。しかし、この水晶については何のためにあるのかがわかっていないんだよ」


そう言ってウェイラブは蓋を閉め、その箱を二人に向かって差し出した。


「お前たちなら……大竜神の剣と盾を扱えたお前たちなら、この水晶の謎も解いてくれるだろう。これもお前たちに預けるときが来た、さぁ受け取ってくれ」


ブランビートはウェイラブから差し出された木箱を、両手で大切に受け取った。

渡し終わったウェイラブは、満足そうに椅子の背もたれに身体を預けて顔を天に向ける。

そのままゆっくりと吐いた息は、静かに空へと消えていく。


「ウェイラブ様……」


マリアリスが、そう呼ぶとウェイラブは声を掛けてくれた娘に向いた。


「マリアリス……今日で”村長”は終わりにする。できれば……父と呼んでくれると嬉しいのだがな。エンテリア、ブランビートも……だ」


その表情は、長年背負っていた重荷を降ろしたようで、すっきりとした顔つきになっていた。

最初の頃怖くて近寄り難い雰囲気を持っていた、あのウェイラブとは全く異なっていた。


「どうだ……そう、呼んではくれぬか?」

「おと……さ……ま」


そう口にしたのは、マリアリスだった。

その言葉に、今まで存在を偽って苦労を掛けた子供たちに対し許された気がした。


「……ありがとう……ありがとう……今まで……苦労を掛けた……本当に……すまなかった……!」


ウェイラブは、声を堪えながら自分の子供たちに今までのことを詫びた。

そして今、ひとつの時代が終わりを告げ、新たな歴史が、ここから静かに動き始めていた。




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