3-242 東の王国46
その日の昼食が終わりお腹がひと段落したころ、エイミとセイラはマリアリスにある場所に連れて行かれた。
そこは、洞窟を利用した大きな空間が出来上がっていた。
天井は地面が抜け落ちたような大きな穴が開いており、そこから昼時の真上に登った陽の光が洞窟内を照らしていた。
ここは長い間放置されていたような感じではなく、今でもこの場所が使われている。そんな雰囲気があちらこちらから感じ取れた。
「マリーさん…ここは?」
エイミが辺りを見回しつつ、マリアリスに話しかける。
その問いかけに対し、広場の中心部に立ち後ろを振り返る。
「ここは……私たちの訓練場ですわ」
「訓練……場?まさか、メイドさんの?」
セイラは勘で答えたが、それが正解だと知った。
その直後、周りに十数人のメイド姿をした殺気を放つ女性たちに現れ取り囲まれていた。
「っ……んんっ!ふぅ……ようやく着くなぁ」
「はい、村長様。そろそろ我が村が見えてまいりました」
二頭の馬が馬車を引き、全て木で作られている馬車は乗り心地が良いとは決して言えなかった。
デコボコした地面の振動は、車輪から直に伝わり身体に疲労や痛みを蓄積していった。
村長は目一杯背伸びをし、座りっぱなしで痛くなった腰を背後に回した手でトントンと叩いた。
エイミとセイラからの手紙を受け取った父親は、自ら村に出向くことを決意した。
その内容に結婚に関する記述があったため、"これはチャンス"と言わんばかりにこの話をまとめようとしていたのだった。
「……ずいぶんと変わってしまったなぁ」
村長は、外から見た村をみてポツリとつぶやいた。
「――え?何か仰いましたか?」
「ん?何でもない。長旅ご苦労だったな」
村長は手紙を届けに来た警備兵の男に、これまでずっと馬車の手綱を握ってくれたお礼を込めて感謝の気持ちを伝える。
道中、手綱を替わろうとしたのだが、”村長という立場の方にそのようなことはさせられません!”と怯えた様子で拒否をするため本人のためにもこれ以上言わない様にしていた。
そこからも、自分の村との温度差を感じこれから合う人物のことが心配になっていた。
馬車は村の入り口の門の前に停まり、顔見知りの警備兵と軽い会話が馬車の前から聞こえてくる。
途中から規律正しい言葉のやり取りに変わり、もう一人身分の高い人物がその場に加わったことを言葉から感じた。
そこから数秒後、挨拶もなしに一人の警備兵が馬車の中を覗き込んだ。
「……お前が”あの”二人の父親か?」
その男は、エイミとセイラの父親に対し威圧的な言葉を掛けた。
自分の娘よりも年齢はいっているが、自分の年齢よりははるかに若い。
だが、村長はそんな言葉使いに対し不快感を示すこともなくその者に依頼をした。
「私は隣の村の”ノービス”と申します。この度は娘がこちらの村で世話になっていると聞きました。挨拶も兼ねてお礼を申し上げたいのですが、”ウェイラブ”村長にお取次ぎお願いしたいのですが……」
自分の今の立場をわきまえた口調で、警備兵の男にお願いをする。
警備兵にとってその対応は、自分の村長の名を知っている人物のため既知の仲であることが考えられると判断した。
今まで、この村に初めて訪れた者は村長の名を口にする者などいなかった。
噂で聞いていたとしても、その名を口にすることが恐れ多いことであることを知る者は迂闊にその名を口にはしない。
口にしたものは、会うことも適わず最悪な態度の場合は痛めつけられることもあった。
そんな噂が周囲に流れている中で、村長の名を口にするということは本当に知っている人物であるかいまだに語る愚か者のどちらかということ。
この状態からして後者ということは考えられないと判断し、このまま待機して事実確認を行うことにした。
「……この場で少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか。只今村長に確認してまいります」
その口調は、今までのものとは異なり要人に接する態度に変わっていた。
その変わり身に今まで一緒に行動を共にした警備兵は、自分の伝えたことが伝わっていなかったことに対しノービスに詫びた。
ノービスはその謝罪に対し、”警備の面からは相手を疑う事は間違いではない”と伝え、話が通じない身内にやや不満を抱いていた気持ちをなだめた。
十数分程経過したところで、先ほどの警備兵がノービスの姿を見つけ駆け寄ってくる。
「ノービス様……大変お待たせを致しました。村長がこれよりお会いになられるとのことです。どうぞこちらへ……」
「ここまでの案内、ありがとうございました。ゆっくり休んでください」
ノービスは今まで一緒に道中を共にしてきた警備兵にお礼と感謝の気持ちを伝えた。
「いえいえ、わたしごときにお気遣いいただきありがとうございました」
警備兵は短い間だったが、この村にはいないタイプの人間に惹かれてしまっている。
何か機会があれば、この村長の役に立ちたいとそう思いながら、遠ざかる背中をいつまでも見つめていた。




