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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-6 ゆめ



――エレーナは夢を見ていた


場所は、保育所のような広い部屋の中。

知っている友達や知らない友達もいる。

エレーナは、みんなの注目を集めたかった。

他の子達よりも、知らないことを知っている。

他の子達が、できないことができる。

でも、みんなは集まってくれない。

それよりも、みんなの意識はある他の子に集まっている。

そんなエレーナの視線に気付いたその子が近づいてくる。

そっと手を差し出してくれて、『一緒に遊ぼう』と笑顔で言ってくれた。

エレーナはその手を取ろうとする……


――パシっ


しかし、エレーナの身体はその手を弾いてしまった。

相手の顔も、少し寂しげだ。

その子は、残念な顔をして他の子供たちに呼ばれていってしまった。

エレーナの手には、相手の手を弾いた嫌な感覚が残る。




……ガタゴト、ガタゴト


目が覚めた時は、馬車の座席の上だった。

目の前には、進行方向に背を向けるように座る席にオリーブがいた。


(――アルは?)


前の窓から見えるのは、馬を操るアルベルトの姿が見えた。

御者は、アルベルトの隣で仮眠をとっている。

頭の中の眠りの霧が晴れ、徐々に状況が見えてきた。

エレーナは身体を起こし、横になっていた椅子に腰掛ける。

その様子に気づいたのか、オリーブが目を覚ました。



「あ、エレーナ様。お加減はいかがですか?」

「オリーブ、私どうしたの?」

「エレーナ様は戦闘中に突然蹲り、その後気を失われてしまったのです。……どこまで、覚えておいでですか?」


盗賊に立ち向かっていき、精霊の力を使った。そこまでは明確に覚えている。

なぜか、あの時指が痛くなった。

意識が朦朧としてしまうほどの痛みだった。

アルベルトが駆け寄って助けてくれた。

アルベルトになんとかして欲しかったが、指輪を外そうとした時に全身に痛みが走り気を失ってしまった。


「あ……指輪」


エレーナは自分の右手の指輪に手をかける。


「――え!?」


(は、外れない!?)


しかも、指がズキズキと痛む。


(私も……認められた……の?)



しかし、前に見た状況とは少し違う気がする。

指輪は、まるで指に喰らいついた様な異様な感覚があった。


「……エレーナ……様?」


黙ったままのエレーナにオリーブは声をかける。


「ごめんね……アルベルトが助けに来てくれたところまでは覚えているわ。ただ、それまでに何が起きていたかの詳細については、痛みで意識が朦朧としてて、はっきりと覚えていないのよ」

「そうでしたか……」

「ところで、今どの辺りなの?」


オリーブは、説明しようとしたが自分も同じく眠ってしまっていたため、はっきりとした場所は認識していなかった。

そのため一度馬車を止めて、エレーナの目が覚めたことと場所の確認を行うことを提案した。

小降りの雨はミスト状のまま、まだ止んではいなかった。

仮眠をとっていた御者に手綱を渡して、中の方へ移動してくる。

アルベルトのローブは小さな雨粒が多数付いていて、アルベルトが動くたびに粒が塊になって流れ落ちていった。

そして、椅子が濡れないようにローブを脱いだ。


「大丈夫か、エレン」


馬車がまた、ゆっくりと動き出す。


「ねぇ、アル。ここはどのあたりなの?」

「ここは……」


アルベルトの話では、今は盗賊と遭遇した地点から三時間ほど走った場所にいる。

王都まではあと、二時間ほど走らせれば着くことになる。

本来は馬も休ませながら、二時間ごとに休憩を入れながら進む予定だったが、危険であることとエレーナの様子が心配である点からなるべく早く到着することを目指していた。


「それで、具合はどうなんだ?」

「指輪をはめた手が痛いのよ。それに外れなくなってるし……」

「あの時何があったんだ?最初の二人を吹き飛ばした後、身動きできなくなっていたようにも見えたが……」

「そうなの、精霊の力を使った途端に身体に激痛が走ったのよ……あれは一体何だったのかしら」


かといって、今は試すことはできない。

もし、また激痛が発生したら命に関わる危険性も考慮すると迂闊に試すことはできない。

差し迫った危険は回避しているため、エレーナは温存しておかなければならない。

それが、今回の旅の重要な目的でもある。


「とにかく、痛みが落ち着いているならよかった。このまま休んだ方がいい」


そういって、アルベルトが立ち上がろうとしたその時、服を引っ張られて座らされた。

掴んだ手の持ち主は、オリーブだった。


「アルベルト様は、先ほど馬を操っていましたしお疲れでしょう。私が前にいます」

「しかし……」

「大丈夫ですよ。もし何かありましたら、あの窓から合図しますのでその時はよろしくお願いします」


そういうと、アルベルトが来ていたローブに袖を通し御者に一度止まってもらうように合図する。

馬車が止まると、オリーブは馬車から前の席に移動した。

再び、馬車はゆっくりと動き出す。


(オリーブったら、気を利かせたのかしら……でも、今は助かるわ)


エレーナはそのオリーブの心遣いに感謝した。

アルベルトが横に座り、エレーナの顔を見る。


「アル……私、どうなるの?」

「大丈夫だ、王都に着いたらさっそく様子を見てもらおう」


エレーナはその言葉にうなずき、アルベルトの肩に頭を預けた。

アルベルトはエレーナの痛む手を持ち、その痛みを和らげようとした。

アルベルトの優しさに落ち着いたエレーナは、再び眠りの中で夢を見る。



またしても、どこかの場所にいる。

見覚えはないが、懐かしい。

幾人の友達と一緒に、一番大好きな人型の像を水の力で造る。

完成したその像を、一番大好きな人に見せようと呼びに行こうとした。

別なグループで遊んでいた子供たちが走り回っていた。

ある子が後ろから背中を押され、一生懸命作った像の中に突っ込みその形は崩れ落ちた。

崩した子供は、エレーナに向かって謝る。

エレーナ自身もあれは仕方がないとわかっていた。

しかし、感情が高まりその子に飛びかかってしまった。

必死に作った一番大好きな人の像、きっと見せたら喜んでほめてくれたであろう出来栄えだった。

それが崩されてしまった、しかもあの差し伸べてくれた手を払った子が崩してしまったのだった。





エレーナはハッと目が覚める。

気が付くと、いつの間にかアルベルトの太ももの上で横になっていた。

アルベルトも目をつむって眠っていた。

あれから何事もなく馬車は順調に進んでいき、日が完全に落ちる前に馬車は王都の門の前に到着することができた。

関所に着くと、王選のために訪れたこととエレーナの状況を説明し治療の手配をお願いした。

すると門番は、エレーナが止まる施設の道順の地図をくれた。

その施設の中に、身体の様子を見てくれるものもいるとのことだった。

馬車はその地図を元に、施設へと向かって走り出した。




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