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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第二章 【西の王国】

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2-5 受け継がれる指輪



アーテリアはエレーナの気持ちに配慮するも、今やらなければならないことを優先させる。


「エレーナ……あなたの気持ちは良く分かったわ。ただ、今は王都に行くことだけに専念しなさい。でないと、他の二人が危険になることも考えられるのよ」


オリーブは急な展開にやや困惑していた様子だったが、さすがアーテリアに一目置かれるだけの存在であり、冷静に状況を整理する。

エレーナが入室してくる前にある程度の説明を受けていたことや、この時点でハルナがいないことも平常ではないことが伺えた。

エレーナは落ち着きを取り戻し、これからどうするべきか考える。

いつもいたハルナの代わりに、オリーブがいる。

属性も違うし、行動や判断も違ってくるはず。

それに対し、この三人でどのように行動しなければならないか……考えなければならないことは、いろいろとある。


「わかったわ……とにかく、王都に行くことを優先させるわ」


気持ちの整理ができていないが、やらなければならない。もう、日にちの余裕が無いのだから。


「……アルベルトもオリーブさんも、よろしくね」


そう言ってエレーナは、一人ずつ手を握り協力を仰いだ。


そして、出発当日。

今日は朝から、雨が降っている。

しかも小雨で、傘が必要なのか必要ないのか意見が分かれそうな空模様だ。

馬車はすでにエントランス前に停まっており、その傍にはアルベルトとオリーブが待っている。

遅れてエレーナとアーテリアが姿を見せた。


「お待たせしました。それではいきましょう」


エレーナは最初に馬車に乗り込み、続いてオリーブとアルベルトが乗り込んだ。

御者が踏み台を仕舞い、前の席に座る。


「行ってらっしゃい、気を付けてね」


アーテリアは馬車の窓に向かって、声を掛けると中の三人がアーテリアに向かって礼をする。

馬車はゆっくりと動き出し、屋敷の門へ向かう。

エレーナは自分の指にはめた指輪に触れる。

これは昨夜、アーテリアから渡された精霊の指輪だった。

なぜか、右手の中指にはめた部分が、脈打つように痛んでいた。

だが、サイズが小さいというわけでもない。

ただ、それを外したがらないのはエレーナだった。

自分もやっと、大精霊に認めてもらうことが出来るところまできた。


(母親と同じように、自分も加護を受けたい……)


幼い頃からの夢に向けて、いま一つずつ進んでいる。

その思いから、エレーナは指輪を外すことをためらっていた。

馬車は関所を抜けて、森の中に入っていく。

この短い期間で、いろいろなことがあった。


(三人で森の中に入ったのも……ついこの前だっけか……)


エレーナは、あの時の最後の夜のことを思い出した。

ちらっと前に座るアルベルトに目を向ける。

が、アルベルトは目をつぶっていた。

エレーナは、ガクッと肩を落とす。


その時……


「――ヒヒーン!!」


馬が急に暴れ出す。

エレーナたちも急に停止した勢いで、椅子から転げ落ちそうになった。

御者が必死に馬をなだめる。


「どうした!?」


アルベルトが前の席の窓を開けて問いかける。


「……盗賊です!道が塞がれています!!」


盗賊たちは、六名だった。

どうやら、視界の悪い雨の日に襲ってきたのだろう。


「おい!中にいるやつは降りて来い!!」

「金目の物を全部出しな!」

「結構いい馬車ですけど、どこかの偉い方じゃないですか?」

「今日はついてるな!」


盗賊たちは、好き勝手なことを言い始める。

アルベルトが腰を上げて剣を腰につけて、立ち上がろうとする。

しかし、エレーナはそれを制した。


「私の旅立ちの日に、よくも泥を塗ってくれたわね……」


馬車の扉を開けて、踏み台分の高さを飛び降りた。

森の木々から雨粒が落ちてきて、あっという間にローブが濡れる。


「おい、お前……女か?」

「女一人で、どうした?もしかして、俺たちに可愛がってほしいのか!?」


盗賊どもは下品な笑い声をあげる。

エレーナはローブから杖を出し、前に向ける。

そして杖の先から、大きな氷の粒を作り出し盗賊の一人……いや、後ろにいたもう一人も一緒に吹き飛ばした。


(――痛!!!!!)


指輪の部分に激痛が走り、その指を反対の手で押さえてその場に蹲る。

残された盗賊たちは、一瞬何が起きたのか理解できておらず唖然としていた。

そして、意識を取り戻した一人が叫んだ。


「……せ、精霊使いだ!!!」

「お前ら、三人で同時に掛かれ!俺は馬の方を襲う!」


窓から見ていたアルベルトが、エレーナの様子がおかしいことに気付く。


「オリーブさん!エレーナの周りに、壁を作って!」


オリーブはその指示に従い、石の壁を作ってエレーナを盗賊から隔離した。

と同時に、アルベルトが馬車から飛び降り、両手の剣で馬を狙おうとしていた盗賊の腕を切り捨てた。


「――ぎゃああああ!!!」


腕を無くしたことに気付いた、盗賊の悲鳴が後ろから聞こえる。

アルベルトはエレーナに襲い掛かる盗賊に向かって走る。

叫び声によりアルベルトの存在に気付いた盗賊は、ターゲットをエレーナからアルベルトに向ける。

三人のうち後方にいた男が、アルベルトに対しスリングショットで攻撃する。

アルベルトは腕につけていたラウンドシールドで、それを弾く。

そのまま一番近い盗賊に体当たりし、レザーアーマーで覆われていない下半身を切りつける。


「ひっ!助けてくれーーーーー!!!」


逃げようとする一人の盗賊の背中に、ラウンドシールドの後ろに隠してあったナイフを抜いてその背中に投げつけた。

大きな的に吸い込まれるようにナイフは命中する。

先程のスリングショットを持つ盗賊が、至近距離でアルベルトの頭を狙っていた。


「死ねぇっ!!!」


盗賊はアルベルトに向けた、引き切ったゴムの指を離した。

石は、引き伸ばされたゴムのような戻る力を利用し放たれた。


「――!!」


アルベルトが回避の動作を行おうとしたが、ナイフを投げたモーションからまだ立ち直れてなかった。

アルベルトを狙う石が、目と鼻の先まで来たその時……


――フッ


石は空気の中に消えていき、アルベルトは物質が移動していたと思われる空気の流れを眉間に感じた。


「……よかった、間に合って」


オリーブはそう告げる。


スリングショットを放った男は、ほんの数秒前まで勝利を確信していた

が、またしても目の前で何が起きたのかわからなかった。


「――がぁっ!!!」


後頭部をアルベルトの剣の柄で強打された男は、白目をむいて倒れこむ。

アルベルトはエレーナの元に駆け寄った。


「エレン!大丈夫か!?」


エレーナからは返事がない。

手を抑えていることに気付いた。


「手を見せてみろ!」


その手を離そうとすると、ものすごく痛がる。


「ちょっと我慢しろよ……」

「――ウッ」


そういって、押さえてる手を離した。

痛みは指輪からきているようだった。

アルベルトはエレーナの指から、指輪を外そうとする。


「――な!!」

「外れないぞ!」


あまりの痛さに、エレーナの意識はここで途絶えた。





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