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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-185 別れの儀式



村の中は、悲しみに包まれる。

花が敷き詰められた村の近くの森の中の広い場所に、元村長のものをはじめ複数の遺体が並べられていた。

上半身と下半身が切り離されているもの、どちらかしかないもの、四肢が不完全なもの、小さな子供は避難していたためいないが成人前の男女も、そこに優しく敬意をもって並べられていた。

形の残っていない者は装飾品や残留物が並べられ、その者たちが存在していたことを示していた。


”――なぜ、こんなことになってしまったのか”

”――いったい、誰のせいでこんなことに”


そんな思いは、村人には浮かんではこない。

自然の中で生きていれば、強敵に襲われることもある。

今まで狩る側だったものが、狩られる側になる可能性も充分に考えられる。

今回は、たまたま自分たちにその順番が回ってきただけのことだった。

だが、それで悲しみという感情が消えてくれるわけでもない。

昨日やつい先ほどまで言葉を交わしていたものが、何も返してこなくなったのだ。

伝えたかったことや聞きたかったこと……もう叶わない願いとなった。

生き残った村人は助かった幸運への感謝と、そうでなかった者たちが安寧の眠りにつくようにとの願いを込めて目を閉じて祈る。

村人の最前列にいるゾンデルが、号令をかけ静寂の時間を終わらせた。


「皆、よくぞ生き延びた……まずはそのことを感謝しよう」


村人は、視線を全てゾンデルに向けた。

村長に生き延びたことを褒められたことで、生存者たちは少しだけ気持ちが軽くなった。

そこから、ゾンデルは言葉を繋げる。


「今回、この惨事から守ってくれた者たちに、村民を代表して感謝の気持ちを送りたい……こちらへ」


横で待機をしていた者たちが、ゾンデルの合図で前に並ぶ。

ナンブル、ブンデル、サナ、子供たちを逃がした屋敷の二名の世話人……

次に、その反対側からステイビル、ハルナ、ソフィーネ、エレーナ、アルベルトと続いて行く。

ゾンデルを中心に左右に一列に並んだ。


「ここに居る者たち……いや、ここに居ない者たちも含めて勇敢に立ち向かってくれたおかげで、今我々はこうしていることができる」


ゾンデルは両手を広げ、エルフやエルフ以外のこの者たちを称えた。

自然と拍手が起こり、その音量で感謝の念を伝えていた。

ミュイもブンデルとサナに視線を送り、小さな手で必死に手を叩いた。

ゾンデルはいつまでも送り続けられる、鳴りやまない拍手を片手をあげて制する。

そしてまた、風が木々を揺らす音が聞こえてくる。

ゾンデルは村民に背を向けて、再び前を向き声を掛ける。


「それではしばしの別れだ、まよわずに自然へ還れ……また再び巡り合う日まで」


後ろにいる者たちが最後の姿を目に焼き付けている空気が伝わる。

周りのエルフたちにならって、ハルナたちもゾンデルと同じ方向に身体を向けた。

村民たちの記憶に残す時間を十分に取り、ゾンデルは魔法を使用する。


(さらばだ……サイロン。安らかに眠れ)


「……”ログホルム”」


魔法が成立すると、ゾンデルの前に眠る全ての者が草に包まれていった。

そこには、草で包まれたドーム状の塊が出来上がった。

ゾンデルは片手を挙げ、近くにいた世話人に合図を送る。

その合図を受けたエルフは、足元に置いていた油の入った壺を目の前の草に振りかけていく。

最後に火打石で火を点けると、その炎はあっという間に燃え広がっていく。

炎の先から昇る白い煙は、空高く舞い上がっていった。

その情景はこの世界で種族は関係なく全ての者が口にする”死者は自然に還る”……その言葉を信じる気持ちをハルナはわかった気がした。

そして全てが燃え尽きた後、ゾンデルはもう一度ログホルムでその場所を覆った。

それは安らかな眠りを妨げられることが無いようにと、ゾンデルの想いを込めたものだった。

その後、そこには目立たないように石碑が建てられ、村で管理することになった。


今後、エルフの村はゾンデルの元で再建が行われるようになる。

ナンブルも手伝いはするが、次期村長は投票によって決定されるように変更される。

交流も東の国だけでなく、ドワーフの町とも交流が行われる。

決定権は少ないが、他種族の意見も取り入れるべきだとはナンブルの案だった。

グラキース共同体が設立され、様々な面で協力し合うことが決定された。

事のきっかけとなった水の問題も、人間の村もエルフの村もドワーフの町に賠償を求めないことを決めた。

そうなれば、三社同盟のバランスが崩れてしまう可能性があるため、なるべく平等な立場を確立するようにした。

そのことを受けて、ドワーフの町は精巧な技術を提供し、復旧作業をすべて請け負った。

それが、ドワーフからのお詫びとして両種族も納得した。


「それでは、準備はいいか?」

「「――はい!!」」


ステイビルの問いかけに、一同が問題ないことを返答する。


「ステイビル王子、またこれからもよろしくお願いします」


ゾンデルとナンブルはステイビルに感謝の気持ちを告げ、引き続きの支援をお願いした。


「了解です。一旦、ふもとに戻りますので、人選をした後にこちらへ向かわせます。その際はよろしくお願いします」


ステイビルが差し出した握手を、ゾンデルは両手で掴み応える。


「ブンデル……気をつけてな。次に来るときは、ナイール……お前の母も戻っていることだろう。元気な姿を見せに来てくれ」


ナンブルの言葉に照れを見せるブンデル。

名前も、このまま”ブンデル”でいくことに決めたようだ。

実際ナンブルにとっては、名前よりも本人が元気であることの方が大切だった。


「サナさん……ブンデルをよろしくお願いします」

「え?……あ、はい!?こちらこそ……」


ブンデルとサナはもう少しだけ、ハルナたちと一緒に行動することを決めていた。

”外の世界を知る”……それが、サナの姉たちの望みだったのだから。


「それではいくぞ、出発!」


その掛け声で、ハルナたちは歩き始めた。

ふもとの人間の村を目指して。




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