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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-172 もう一つの魔法の矢



「……誰だ、お前は?」


ブンデルは、ミュイを抱えたダークエルフに声を掛ける。


「よくここまで追い掛けてきたな……そのまま見逃せば、痛い思いをしなくても済んだものを」

「……うるさい、黙ってその子を解放しろ!」


ブンデルは、ハルナたちから聞かされて分かっていた。この目の前にいるダークエルフは、以前襲撃を掛けてきた首謀者であることを。

そして、その強さのことも聞いていたが、今はミュイを片手に抱えた状態のため何とか対応できるのではないかと判断した。


「返してほしければ、力づくで取り返せばよかろう!?」


ダークエルフは、泣き叫ぶミュイを担いだ反対の手でダガーを振り回してくる。

ブンデルはそれを必死に避ける。

その攻撃が見えているわけでもなく、ただただ短い攻撃範囲の外に行くだけの回避だった。

ステイビルたちの訓練の中に混ざり、少しは接近戦の訓練も行っていたが全くと言っていいほど接近戦は向いていなかった。

しかし、その訓練の成果は出ている。

途中でログホルムを混ぜながら、相手の攻撃パターンを阻止したりすることはできた。

そのタイミングでブンデルは、ダークエルフの攻撃の範囲から距離を置くことができていた。


「接近戦は嫌いか?……ならこれならどうだ?」


ダークエルフはミュイを真上に放り投げ、空いた片手に弓を構える。

そして、矢を番え弓を引いた。

正面から見た矢はその細さと速さで、全く視界にとらえることができなかった。

慌てて草の壁を作るが、矢はいとも簡単に草の間を突き抜けてくる。


「――ウッ!」


辛うじて直撃は避けたが、脚と顔に傷を負った。

傷は足の方が深刻で、痛みのあまりにその場に倒れこんだ。

ダークエルフは落ちてきたミュイを捕まえて、再び乱暴に抱える。

高く放り投げられた恐怖か、受け止められた時の衝撃か。

ミュイの意識は無くなってしまっていた。


「致命傷……ではないが、歩くことも立つことも難しそうだな」


ブンデルの状況を分析しながら、近づいてくる。

その手に再びダガーが握られ、ブンデルを切り刻むつもりでいた。

逃げることのできない余裕からか、ダークエルフはダガーを宙に放り投げ遊んでいる。

ブンデルは背中を地面に付けて後ずさりをしながら、密かに距離を測る。

これもステイビルたちと訓練をしたものだった。

ブンデルが一歩下がる間に、相手は三歩距離を詰めてくる。

その数を数えてブンデルは秘策の準備をする。

そして、次の一歩でダークエルフの攻撃範囲に入ったその時……


「”エルライツ”!!」


この魔法は明かりを照らす魔法だが、必要以上に魔力を込めると眩しすぎる程発光することがわかった。


「――グワァッ!!」


ダークエルフはその光を直視し、目の前の視界が奪われてしまう。

その隙にブンデルは足の痛みを忘れて、ミュイをダークエルフから奪い返した。

そして、ブンデルはそのままダークエルフから距離を取りミュイを地面に寝かせてログホルムで周りを囲う。

充分な厚さのため隙間はあるが、あの矢も貫くことはできないだろう。

不安は残るが、ブンデルが今できることはこれぐらいしかなかった。


「おのれ……よくも小賢しい真似を。覚悟はできてるんだろうな!?」


まだ視界にちらつきが残っていたが、戦うには十分な視力は戻っていた。

ダークエルフは、ミュイを奪われて空いた手にもダガーを握りブンデルに近寄ってくる。

ブンデルは、既に対抗できる手段がない。

サナがステイビルたちを連れてくるまで持ちこたえたかったが、それは叶わなくなりそうな状況だった。


(ここで死んだら、サナは悲しんでくれるだろうか……)


そんな悪い思いを振り切るように、ブンデルは首を横に振った。


「死なない……絶対に死にはしない!!」

「ほざけ!!お前がどう足掻いても、もうお終いだ!!!」


ダークエルフは、一気に距離を縮めるためブンデルに飛び掛かる。

両手に持ったダガーを突き立て、ブンデルの胸元を目掛けて襲い掛かった。


(まだ、身体は動く!)


オーバーヘッドキックのように、上半身を畳み込み痛む足を庇いながら後方に転がり回避する。

そこに偶然が重なった。


――バキッ!!


回転する足のつま先が、ダークエルフの顎を捉えた。

動くことができないと襲い掛かってくるタイミングは、遠心力によって威力が増し無防備な状態からカウンターのようになった。

ダークエルフは脳震盪を起こし、顔面から地面に崩れ落ちていく。

ブンデルは、気絶したダークエルフの両手から武器を奪い遠くに投げ捨てた。

そこから数秒後、ダークエルフの意識は復活する。

そして頭を抱えながら起き上がり、目の前の”エモノ”をもう一度視界に捉える。

だが、手の中にあった武器がなくなっていることに気付く。

周囲を見回してもどこにもないことから、目の前のエルフが処分したことが伺えた。


「どこまで……俺を苛立たせる……てめぇはよぉおおお!!!!!」


ダークエルフは背中の弓を構え、最後の一本の矢をブンデルに向けて放った。


――ドス!!


「――ッ!!!」


至近距離から放たれた矢は、避けることも許されずブンデルのもう一本の脚に突き刺さった。

今まで経験したことのない痛みに、ブンデルは意識が飛びそうになる。

ブラックアウトしそうな視界を必死に堪えて、ブンデルは力を振り絞り防御をする。


「……”ログホルム”!」


そこに出現した蔦は、防御としては役に立たない緑のカーテンのような薄さだった。

痛みや気絶を堪えながらでは、これが限界だった。


――ザク!


もう一本予備で持っていたダガーで、ダークエルフは容易に切り裂いた。


「しぶといな……だが、これで終わりだ」


ダークエルフの手の中には、魔法で輝く弓が出現しそのまま弓を引き魔法の矢をブンデルに定める。


「エルフの民の最強の戦士だけが習得できる魔法の矢で、この世から消え去れ!」


そして、ダークエルフはブンデルに向かって魔法の矢を放った。




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