3-166 エルフの村の中の人間
「襲撃です。相手は二十人くらいの人間です、多分ですがエルフをさらいに来たのではないかと思われます」
小さなエルフが泣きながら、ソフィーネの脚にしがみついていた。
「ソフィーネさん……その子は?」
エレーナはその答えを予測しながら、怒りの感情を抑えつつ確認した。
「この子は……その者たちに連れ去られようとしていましたので救助しました」
「もしかして、また”あいつら”なのかしら……」
エレーナは、あの渓谷での騒動を思い出す。
「だとしたら、しつっこい性格ね!」
ハルナも語気を荒げて、エレーナの視線に応える。
ステイビルはそのやる気を逃さずに、ここにいる者たちに指示を出した。
「よし、それでは敵を撃退し、この村を守るぞ!!」
ステイビルは戦力としてもまとまってきたと考え、各個がそれぞれで戦うのではなく編成を作って戦うようにした。
前衛はアルベルトとソフィーネ、中衛にエレーナとハルナ、後衛にはブンデルと回復薬のサナという編成で行動するようにしたのだ。
ステイビルは中衛に位置し、指示や状況の判断、エレーナとハルナや後衛の二人をサポートする役割となる。
今回、小さい子はサナとブンデルに任せて他のエルフの住人に引き渡してもらうようにお願いをした。
その他の者は、抗戦している最後尾のエリアまで歩みを進める。
深くまで入り過ぎると、ブンデルとサナの合流が難しくなる。
敵のこれ以上の侵入を防ぐためにも、ここで撃破していくのが妥当と判断した。
――ガシャーン!!!
火がついて燃え盛る家の窓から、傷付いたエルフが飛び出してきた。
その後を追うように、ウォーハンマーを抱えた人間がその姿を現した。
四つん這いになり地面を張って何とか逃げようとするエルフを、気味の悪い笑みで追い掛ける人間。
肩に担いだハンマーを両手で握り、弧の軌道を描いて振り上げ頭の頂点に達するとその動きを止めて振り下ろす動作に移行する。
「ひゃっはぁー!!頭の中身をぶちまけて死ねー!!!」
「う、うわぁあああっ!?」
打ち付けるハンマーが、エルフの頭を狙って一直線に振り下ろされる。
だが、襲った側の手には大好きな押しつぶされた感触が伝わることはなかった。
――ゴン!!ゴッ!ゴロロロロ……
エルフの頭の上を飛び越えて、ハンマーの槌頭が数回跳ねて地面を転がっていく。
「あれ?」
振り下ろした男は、何が起きたのか判らなかった。
振り下ろした先に付いてあったものがきれいに切り落とされているのが見えた。
視界の端には、新しい人影が写り、その方向を見ようと顔を向けると既に手の届く範囲までその男は接近していた。
「っぶぇ!!!」
男の頬はアルベルトの鉄拳によって打ち付けられ、奥歯が口の中で数本砕け散った。
「大丈夫ですか、お怪我は?」
「あ、アンタたち……ゾンデルの」
「今は、この場から離れてください。皆さんあちらの方へ移動しています」
エレーナが、エルフの手を取り引き上げて身体を起こす。
そしてエルフは、一言礼を言ってエレーナが指さした方向へかけていった。
アルベルトは殴り飛ばした男の元へ、剣の柄を握りしめたまま近付いて行く。
痛みでうずくまっている身体を無理やり引き上げ、胸ぐらをつかんで顔を引き寄せた。
「おい、お前たちは何者だ?何のためにこんなことをする?」
「ひゃっ!?ひゃすへてくれー!!」
男の前歯は数本も折れているため、まともにしゃべることができない。
だが、そんなことはアルベルトには関係がない。
腫れた頬に対し、更に平手で痛めつける。
「ま、まっひぇふれぇええ、はなしゅ……なんでもはな」
その瞬間、男の側頭部に一本の矢が突き刺さった。
その様子を見ていたソフィーネが、矢が飛んできた方向にナイフを投げた。
――キン!
何もない暗闇だったが、投げつけたナイフが弾かれた。
その姿は見えないが、次は違う場所から矢が放たれた。
二度目は後ろから見ていたエレーナが反応し、二人の前に氷の盾を作り出し矢を防ぐ。
「ハルナ!!」
ステイビルの掛け声を合図に、ハルナは空気を圧縮した塊を浮かび上がらせる。
「えい!!」
ハルナは、ステイビルが瞬時に指した方向へその塊を放った。
合計六つの空気弾が、ある方向にまっすぐ向かっていく。
――クン!
「――!?」
弾道は、途中で急に方向を変えていった。
『チッ!』
姿が見えないものは、必死にその攻撃を避けている。
バン、ババン!!
何個か塊が粉砕される音がする、相手は暗闇の中でも空気の塊が見えるようだった。
しかし最後の二つが、更にその姿を追い詰めていく。
そして、ソフィーネがハルナの放った空気の弾道から予測し、獲物に向かって一本のナイフを投げた。
「……”マジックアロー”」
そう声がした途端、三本の光の矢がハルナとソフィーネの攻撃を追いかけて撃ち落としていった。
次の瞬間、隠していた姿は光を放つ月を背後にそのシルエットを現した。
その姿は、ある種族特有の耳の形をしている。
そして、ハルナたちに向かって話しかけてきた。
「――何故エルフの村に人間がいるのだ?」




