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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-153 ナンブルとナイール7



「いやー、今日はおめでたい日だ!皆も遠慮はいらん、さぁ思う存分楽しんでくれ!」


ここは、村の大広場。 真ん中にナンブルとナイールが座り、円の線上に村人全員が集まって座る。

目の前には豪華な食事が並び、いつもより高いお酒や飲み物が振舞われている。

弓の形をしたハープのような弦楽器と木をくりぬいた打楽器が、祝いの曲を奏でこの場を盛り上げる。

一緒になることを決めた翌日、ナンブルはサイロンに報告に行く。


「……ほ、本当か!?」


サイロンは信じられないといった表情で、何度も何度も事実を確認する。

自分が希望したことでもあったがその反面、自分勝手な願望でもあった。

ナンブルは一緒になることは間違いではないことを、同じように何度もサイロンに”説明”した。

最悪な場合、自分が村長になった際または、二代目からの命令として言いつける考えもあった。

サイロンは、この恨まれそうな方法を使わなくなって済んだことにホッと胸をなでおろした。

この手を使ってしまうと、ナイールに一生口をきいてもらえない可能性が高いと判断していたからだった。

そこからは、急速に事態が動き出す。

報告した翌日から、ナイールは閉じ込められていた屋敷から解放され元の家に戻ることができた。

その時、ナイールの世話をしてくれていた者たちは、またしても泣いて喜んだ。

今度は命令が守れたことではなく回復して以降、ナイールはその者たちと交流を深めていた。

それは侍従の関係ではなく、信頼関係が構築できていたからこその涙だった。

ナンブルと運動や魔法の訓練をしていたため、ナイールはすぐにでも元通りの生活ができるようになっていた。

ただ一つだけ、あの習得した魔法のことは伏せていた。

噂レベルの話ではあるが、ずっと村に縛り付けられてしまいそうな予感がしていたため、ナンブルと相談してそのように決めていた。

やがてそのことは、村長の耳にも入ることになる。

そして、この村をあげての大騒ぎとなるまでに、一週間もかからなかった。


「ナンブル……ごめんね。静かに身内だけでって父には言っておいたんだけど」

「え?あぁ。構わないさ、村長も”自慢の孫”の晴れ姿を村中に見せたいんだろう……俺も孫ができたらこうなるのかな?」

「お、なんだ?ナンブル……親の前でもう孫の話か?それは家に帰ってから”やって”くれよ」


喜びと悲しみとが混ざり合った赤みを帯びた顔は、ナイールの父であるサイロンだった。


「もぉっ!お父様、弱いのに飲み過ぎだってば!!」

「いいだろうが、今日ぐらい……っとに、お前は母親に似て口うるさくなったなぁ。小さい頃はあんなに可愛く……(ブツブツ)」


呟くふりをして、ナイールから離れていくサイロン。

これはナイールの小言から離れていくときの、いつもの手法だった。

病で母親をなくしたナイールは、ずっと小さい頃に見た母の役目を代行していた。

シッカリとした性格に育ったのは、そのこともあってのことだろう。


「まぁまぁ、そういうな。今日は祝ってもらえているんだ、少しだけ大目に見てやってくれ」


飽きれた顔をしているナイールをなだめるナンブルだが、ナイールも今日ばかりは大目に見るつもりではいたのだ。

ナンブルの家も同じ時期に、同じ理由で母親を亡くしていた。

この空気を変えるために今度は、ナンブルの家で同じ母親の役目をしてきた家族が、今日から新しい家族となったナイールにお祝いの言葉を持ってきてくれた。


「本日は誠におめでとうございます、これからも兄をよろしくお願いしますね!……えーと、ナイール……さん?それともお義姉さんって呼んだほうがいい?」

「何言ってるの、ナルメル。今まで通り”ナイール”でいいわよ!それにしても、妹みたいだったけど、本当の妹になっちゃったわね!」


そういってナイールは、ナルメルを引き寄せて抱き締める。

ナルメルも嫌がる様子もなく、その愛情と喜びに対して同じく抱擁で応えた。

ナルメルも昔からナンブルたちと一緒に過ごしたため、本当の家族のような気がしていた。

だが、これで本当の家族となったことへの、喜びを隠せなかった。


「それでお兄様、住むところは決まったの?うちに来るの?それとも村長のお屋敷?」

「あぁ、それについては村長の願いもあって屋敷の中に住むことになった。いまは、あの様に元気に振舞われているが、相当お辛いのだろう……」


村長は、ナンブルたちが一緒になることを報告した数日後に病にかかったことが発覚した。

しかもそれは、ナイールとナンブルの母親の命を奪った同じ病だった。

だが、村長は落胆しなかった。

サイロンの次の村長が、これから家族となることが決まったからだ。

その者は、ゾンデルと同じく”事情”を知っている。

しかも、村の中でも優秀な人材同士が一緒になった。


”これでエルフの村の今後は安泰である”


自分の命の灯が消えた後も、安心して森の中からその様子を見守ることができる――

式を挙げた後、村長の権限をサイロンに譲り、ナンブルとナイールがその補佐を行う。

村長は満足して、自分の余生を過ごすことを決めた。

その後は、二代目の思惑通りに進みエルフの村に永い安定した時代が訪れようとしていた。


――誰もがそうなると思っていた


二人に、皆が待ち望んだ新しい命を授かった。

それを一番喜んだのは、サイロンよりもゾンデルよりも長老だった。

長老は既に歩くことも出来ず、ずっと床の中で伏せていた。

だが、その吉報を耳にして事が切れたのか、翌日長老は自然の中に還っていった。




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