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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-137 村長とブンデル



(私たちのせいで……こんなにも皆が苦しんでいるなんて)


サナは今更ながら自分たちの選択の結果が、他の人たちにこんなにも影響を与えていたことに驚愕する。

こうなることは判っていた……そのはずだったが、現実を知らされるたびに事の大きさに胸が押しつぶされそうになる。

そんな思い詰めているサナの肩に、ブンデルが後ろから優しく手をかける。


「ブンデルさん……」


サナはブンデルの顔を見るが、ブンデルの視線はまっすぐ村長の姿だけをとらえている。

しかし気持ちはサナに向いていることは、その手からブンデルの優しさが伝わってくる。

サナの肩から手を離し、一歩一歩ゆっくりと足を前に進めていく。

そして、村長まであと二人分の距離を開けたところで足を止めた。


「お久しぶりですね……村長様」


村長は、ブンデルがここにいることに動じることもなく、記憶の中のブンデルよりも成長したその姿を見つめる。


「あぁ?お前はブンデルか。お前もよくこの村に顔を出せたものだな……」


その言葉に、幼い頃に村長から受けた怖かった言葉の暴力などの記憶がよみがえる。

少し早くなった胸の鼓動を抑えつつ、痛む古い記憶を乗り越えて再び村長に話しかけた。


「できれば戻ってきたくはなかったんですけどね。成り行きでこんな感じに」

「まあ無理もないだろ。村や施設から逃げ出すような奴には、人に流されて生きる無駄な生き方がお前にはお似合いだろうて」


ブンデルを煽りつつ、もう用事はないとこの場を離れようとする村長をブンデルは引き留めた。


「ところで、村長。一つお伺いしたいのですが」

「……面倒だな。なんだ?」

「その施設で私はなぜ習得できない魔法の訓練をさせられていたのでしょうか?」


ほんの僅かだけだが、村長の動きが止まる。

そのことは、本人以外には分からないような一瞬の出来事だった。

だが、それが相手に見えていたとしても何の問題もない。

その間は、よくある次の動作に移るための溜めと言えばいい。

村長はブンデルたちに背中を向けたまま顔だけ横を向け、何気ない表情で言葉を返す。


「習得できないだと?それはお前の訓練が足りなかったからじゃないのか?現に、一緒に練習していた者たちは習得していっただろうし、お前自身も教えてやって習得した魔法があるだろう?」

「でも、それは初めから習得できる“素質”を持った者だからではないですか?」


背中越しに話していた村長は、身体の半分だけをこちらに向ける。


「ブンデル……お前、何が言いたい?」


その発した声色は低く、ブンデルを叱っていた時に使っていたトーンの声だった。

ブンデルの身体はほんの少し硬直し、背中全体に汗が流れるのを感じる。

しかし、今はあの頃とは違う。

ブンデルの後ろには、短い期間だが助けてくれる仲間と自分のことを慕ってくれている仲間がいる。


(誰一人、仲間がいなかったあの頃とは違う……)


仲間の存在を認識することで、硬直から解かれ胸の中に温かいものが流れ込んできた。


「ドワーフの町では、その魔法に資質を持った者でしかその魔法は扱えないと言っていました。あの研究熱心で名高いドワーフがそう言っていたのですからね、かなり信憑性のある内容だと思いますが……」

「……すっかり、その者たちにたぶらかされてしまいおって。お前は一体どこの者なのだ?ドワーフか?人間か?知能の低いコボルドか?」


村長がその他の種族の名を挙げていく際、口に出すのも汚らわしい表情と吐き捨てるような口調でその名を口にした。

裏を返せば、エルフが一番と言わんばかりの口ぶりだった。

そこからこのエルフが、どのような考えを持っているのか推測できる。

その村長の発言は、この場の空気を一瞬にして悪くした。

サナだけでなく、エレーナも我慢ができない様子で必死に感情を堪えている様子が伺えた。


「……もう何も言うことはないのか?では、さっさとこの場所より立ち去るがいい。今回だけは特別に見逃してやろう、お前たちは悪意があるわけではなさそうだからな。だが、もし我々が憎いのならかかってくるがいい。その時は我々も種族の存続をかけ、お前たちの前の大きな壁となり、その前に立ちはだかろう」


そういうと村長は全員に“魔法解除”を掛け、マルスを連れてこの場を去ろうとした。

ハルナは頭の中に引っ掛かっていたあることが浮かび、これを確かめないとこれ以上話が好転しない気がした。


「ちょっ……ちょっと待って!?」


だが村長とマルスはハルナの声など、あの特徴的な長い耳に入ってきていないかのように振る舞い歩き続ける。


(あ、無視された!?)


ハルナもその態度に対し、初めて少しだけイラっとした。

その気持ちに反応したフウカが、ハルナの後ろの方から姿を見せる。

そして長老たちの前に立ちはだかり、手を出して止まるように指示した。

だが、村長はその精霊の姿を一瞥し、その姿に動じることなく歩き続けた。

ハルナはその様子を視界に入れながら、先ほどよりも大きめな声で話しかけた。


「大竜神って……“モイス”さんのことですか!?」




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