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問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』  作者: 山口 犬
第三章  【王国史】

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3-128 ナルメルの理由



ナルメルはそこから、自分の身に起きた出来事を話し始めた。


エルフの村は思いのほか、厳しい状況に置かれていた。

水が枯れたせいで飲み物や食べ物がほとんど手に入らない状況だった。

村の外に出て探しに行ったとしても、周囲の草木は水不足の影響で枯れてしまい木の実や獣もいないため食肉も手に入らなかった。


だが、エルフの村の長は頑なに他の種族との交流は避けるとし、村民全員に先ほどナルメルが牢屋の中で使っていた力を使うように強制させられそうになっていた。


ナルメルは村の中で少人数で反対をしたが、村長が下した決定は覆ることはなかった。


空腹を堪えるノイエルに、最後の一粒の木の実を与える。

育ち盛りのノイエルにとっては、何の足しにもならない一口だろう。

逆に、更に空腹を加速させてしまうことになったかもしれない。


だが、必要な栄養は与えなければ小さな命に関わる。

長い眠りのような状態でも、栄養は必要とされる。

普段この力を利用する場合は、ある程度体内に栄養を蓄えてから行われる。

この状況では、その栄養も蓄えられないまま眠りにつくことになる。


大人の場合はある程度体内に蓄えられているが、小さな子供では長い眠りには耐えられそうにない。

それに、永い眠りから目が覚めても、状況が変わっている保証はどこにもない。


(その前に何とか……この子に食べ物を与えなければ)


ナルメルはその時、村の外に出ることを決意する。

そのことを村長は、許しはしないだろう。

だから、ナルメルは黙って村を出ることにした。


……勿論、村の掟は知っていた。

牢屋に入るだけで、このまま一生会えなくなるというわけではない。

ノイエルのことを考えると、これが一番の策と判断した。


「ねぇ、ノイエル。お母さん村の外に食べ物を探してくる……」

「え?私もついて行く!」

「ダメ!ノイエルはここで待ってなさい……お母さん、必ず帰ってくるから」

「イヤ!絶対ついて行くの!離れ離れになっちゃうの……なんだか怖いの」


ナルメルはノイエルの頬をそっと両手で包んだ。

ノイエルはその手に触れて、母親の手の温かさを味わっている。


「大丈夫……あなたを一人にさせない、だけど外は危険が多いからあなたじゃ危ないの。本当は……外にしか咲いていないお花や小さな生き物をあなたにも見せてあげたいんだけど……ごめんね、村が変わったら見せてあげるから。」

「ほんとに?その時は一緒に連れて行ってくれる?」

「えぇ、見せたいものがたくさんあるわ」


ナルメルは、ノイエルが安らげる笑顔を注ぐ。


「もし……もしも、何かあったらお爺様のところへ行きなさい。万が一だからね、そこまで心配しなくていいわよ。お母さん、木の実集めるの上手なんだから!」


新しい条件を出されて、ノイエルはまた不安に襲われる。

そんな不安そうにするノイエルの首にかけたネックレスの葉に触れてナルメルは誓った。


「お母さん、絶対に帰ってくるから。このあなたが生まれた時に祝福を受けたこの葉に誓って……必ず」


そしてナルメルは、不安そうなノイエルを優しく抱き締めた。

そう言って、ナルメルは誰にも見られない様に、こっそりと村を出ていった。


「……なるほど。そこであいつらに捕まってしまったんですね」

「はい。私も弓の腕には自信があったのですが、人間の女ともう一人フードを被った男がいて……お恥ずかしい話ですが捕まってしまいました」


アルベルトは、弱った身体にと温めたスープをナルメルに手渡した。

ナルメルはアルベルトに頭を下げて、素直にその好意を受け取った。


「もう一人の……男ですか?」


ステイビルが、ナルメルの言葉についてもう一度確認した。

命には問題ないが、衰弱した身体にゆっくりとスープを流し込む。

ほとんど具は入っていないが、干し肉と野菜の味がたっぷりと流れ出た塩味のスープだった。

カップの中身を飲み干して、ステイビルの質問に答える。


「はい、あの女はその男には頭が上がらない様子でした。」

「しかし、我々が潜入したときにはそのような人物は見かけなかったが」

「そういえばランジェという者は私を誘惑した際に、”組織の中で上に上がれる”といったことを言ってましたね」


あの現場の中でランジェと一番長く対峙していたのはソフィーネで、その間その男の姿は見ていなかった。


「ナルメルさんとソフィーネの話を繋げると、まだまだ他にも同じような者たちがいるみたいだな」

「そのようですね。はぁ……」


この場をステイビルがまとめると、エレーナがその発言に同意しまだまだ続きそうな案件にため息を漏らした。


「で、でも。ほら、こうやってナルメルさんが無事に戻ってきたんだから。よかったじゃない、ノイエルちゃんも喜ぶよ!」


ハルナが必死にこの場の空気を換えようとした時、ブンデルが更なる問題を提示した。


「それで……これからどうするんですか、ナルメルさん。あなたはこのまま村に戻ったら、ノイエルと引き離されてしまうんじゃないんですか」

「でも、ノイエルちゃんも外に出ているから……」


更にこの場の空気が重くなっていく。

考えることが多すぎて、疲れてしまったようだ。


「……その辺りはまたゆっくり考えよう。どの道、エルフの村に行って話し合いをしなければならないからな……」


翌朝、一同は再び村に向かって進み始める。




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